【12月16日 AFP】イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)で、イスラム組織ハマス(Hamas)の地下トンネル網への注水を試験的に開始したとされることについて、専門家は、ガザの民間人に多大なリスクを負わせる危険な選択だと指摘している。

 イスラエル軍は、10月7日のハマスによる南部への越境攻撃を受け、トンネル網の破壊を決断。注水を提案したヘルツィ・ハレビ(Herzi Halevi)参謀総長は、「名案」だとしている。

 米ニューヨーク州ウエストポイント(West Point)にある陸軍士官学校の分析によれば、イスラエル軍が「ガザ・メトロ」と呼ぶ、地下に迷路のように張り巡らされたトンネル網は10月7日時点で、1300本のトンネルで構成され、総延長は500キロ以上に及ぶ。

 2007年にハマスがガザを武力制圧して実効支配するようになると、イスラエルはガザを封鎖。地下トンネル網は当初、封鎖をかいくぐってエジプトとの人の往来や物品・武器の密輸に使われていた。

 2014年のイスラエルとハマスの軍事衝突の後に延長され、戦闘員がガザ各地からイスラエルにロケット弾攻撃を仕掛けるために使われるようになった。

 米シンクタンク、ランド研究所(RAND Corporation)の軍事専門家、ラファエル・コーエン(Raphael Cohen)氏によれば、今年10月にガザに侵攻したイスラエル軍はトンネル網が「予想よりも深く広範囲に及んでいる」ことに気付いた。

 イスラエル軍は12月、800か所で立て坑を発見し、うち500か所を破壊したと発表。立て坑は学校やモスク(イスラム礼拝所)、公園などの民間人居住区にあったと主張している。

 一方で軍は、地下トンネル網の封鎖・破壊計画について詳細を明らかにしていない。

 イスラエルメディアによれば、軍はトンネル網に地中海からくみ上げた海水を注入する手法を支持している。公共放送のチャンネル11は14日、注水試験が成功したと報じた。

 だが、ランド研究所のコーエン氏はAFPに対し、注水は必ず「副次的な影響」を伴うと指摘し、「トンネルを破壊すれば、地上のインフラに影響が及ぶ」と述べた。

 ハマスは、イスラエルにトンネル網は破壊できないと考えているようだ。レバノンを拠点とするハマスの幹部、ウサマ・ハムダン(Osama Hamdan)氏は14日の会見で、「トンネル網は、十分な訓練と教育を受けた技術者によって造られている。爆撃や水攻めなど、あらゆる攻撃を想定している」と主張した。

 地中海に面し、幅6~12キロしかないガザは既に、海面上昇によって地下水の塩分濃度が高くなるなどの大きな問題に直面している。(c)AFP/Gaël BRANCHEREAU