■南米

 ソ連を倒すことを大目標に掲げる一方、キッシンジャー氏は、左傾化した各国政権の打倒も唱道した。主要な標的にされたのがチリとアルゼンチンだ。

 機密解除されたメモに、その冷徹な計算が残されている。チリのサルバドール・アジェンデ(Salvador Allende)大統領について、社会主義政権が機能することを示す「狡猾(こうかつ)な」モデルを提示しようとしているとにらんだ。米中央情報局(CIA)の支援を受けクーデターを起こした反乱軍に追い詰められ、アジェンデ大統領は自殺した。

■侵攻を支援

 米国の利益になると見れば、侵攻を支援することもためらわなかった。対中国交正常化に向け仲介役を果たしていたパキスタンが行っていた、東パキスタンにおける大規模な虐殺・レイプを外交面から援護。東パキスタンは後に独立を勝ち取り、バングラデシュとなった。

 インドネシアに対しても、東ティモールの併合にお墨付きを与えた。その結果、東ティモールは24年間にわたって苛烈な支配下に置かれることとなった。

 トルコによるキプロス北部占領も水面下で支援。戦略的な要衝に位置するトルコとの関係強化と、同じく北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるギリシャとの均衡関係の維持を図った。

■中東

 1973年にアラブ諸国がイスラエルに先制攻撃を仕掛けた際には、同盟国イスラエルへの大規模な軍事物資空輸「ニッケル・グラス作戦」を実施。

 後に「シャトル外交」を展開してイスラエル、エジプト、シリア間の停戦合意を取りまとめた。

 アラブの大国エジプトとの関係改善に努めた結果、同国は現在では米国の安全保障協力国であり、支援先となっている。(肩書き・国名はいずれも当時)(c)AFP