■イランとの取引

 ロシア軍はウクライナ侵攻でイラン製無人機を大量に使っている。そのためイランとの関係強化はロシア外交の主要目標となっている。

 しかし、イランはハマスやレバノンのイスラム教シーア派(Shiite)組織ヒズボラ(Hezbollah)の後ろ盾でもあり、関係緊密化にはリスクも伴う。

 英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のナイジェル・グールドデービス上級研究員は、「ウクライナにおける戦争はロシアとイランの軍事的結び付きを強めることになった。侵攻開始以来、ハマス構成員が少なくとも3回、モスクワを訪れている」と指摘。

「ここで常に問題となるのが、イスラエルに対ロシア関係を見直させることなく、どこまでイランとの協力関係を推進できるかだ。ロシアは、イランに対する激しい報復が行われれば、数少ない緊密な協力国の一つが弱体化しかねないことを心配する必要もある」と語った。 

■イスラエルへの対応

 プーチン氏はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相と個人的に強いつながりを持っており、ネタニヤフ氏をたびたびロシアに招いている。このため、対イスラエル関係についても同時に、注意深くバランスの取れた対応を図る必要がある。

 イスラエルはこれまで、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの武器供与を控えてきた。

 仏シンクタンク国際関係研究所(IFRI)のディミトリ・ミニック氏は、「クレムリン(ロシア大統領府、Kremlin)はこれまで、イスラエルをウクライナ戦争に関与させないことに成功している。イスラエルは西側に属するが、ウクライナの新たな支援国にしたくないと考えている」と述べた。

 ただし、プーチン氏はハマスによる攻撃に言及する際、「テロリスト」という言葉を使うのを明らかに差し控えている。

 CSISのノッテ氏は、そうした姿勢からは、「(ロシア)政治の優先対象が変わったこと、中東やグローバルサウス(新興・開発途上国)における親パレスチナ派にすり寄ろうとしていること」が読み取れるとしている。

■西側の弱体化

 プーチン氏は中国やイラン、北朝鮮と共に、新たな世界秩序を構築したいと発言している。一方で、中東における混乱の責任は米国にあると公に非難している。

 Rポリティークのスタノバヤ代表は新たな中東危機について、「世界全体の不安定化を招くとともに、西側との歴史的な対立を蒸し返すことによって、反西側的な言説をあおることにつながっている」と解説した。(c)AFP/Didier LAURAS