【9月15日 東方新報】中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ、Huawei)」は、何の前触れもなく、そして新製品の発表会もやらず、8月29日に突然スマートフォンの高機能上位機種「Mate 60 Pro」の販売を開始した。

 マーケットデビューはつつましいものでも、世間の注目は強烈だった。それは同機種が中国の半導体メーカー「中芯国際集成電路製造(SMIC)」が開発した最新鋭システムオンチップ(SoC)「新型麒麟9000s」を搭載し、ユーザーに無限の想像空間を提供しているからだ。

 
 ファーウェイオンラインショップ「華為商城(VMALL)」で9月6日午前10時8分に再度「Mate 60 Pro」を売り出したところ、10秒も経たないうちに完売となった。ファーウェイ顧客サービスセンターに確認すると、現状ではユーザーが購入してから出荷まで約2週間はかかり、また1人のユーザーに1台限りの販売で、それ以上注文しても取り消されてしまうとのことだ。

 VMALLの販売価格は「Mate 60 12GB+512GB版」が5999元(約12万1261円)、「Mate 60 Pro 12GB+512GB版」が6999元(約14万1474円)だった。

「Mate 60 Pro」は世界初の一般向け衛星通信対応のスマホで、地上のネットワーク信号がない場所でも衛星を介して電話をかけたり受けたりすることができる。また、この機種には靭性が非常に高く砕けにくい「崑崙(Kulun)ガラス」と、ファーウェイ独自開発の「盤古(Pangu)AI大モデル」が搭載されている。

 かつて中国市場ではファーウェイが米国アップル(Apple)と覇権を争い、一度はアップルを凌いだことがある。

 世界的な市場調査会社IDCの中国支社が2020年10月に発表したデータによると、20年上半期の中国市場で600米ドル(約8万8254円)以上の価格帯のスマホ市場のシェアは、ファーウェイがトップで44.1パーセント、アップルは44パーセントだった。その他のメーカーは2社に遠く及ばず、小米科技(シャオミ、Xiaomi)が約4パーセント、オッポ(OPPO)やサムスン電子(Samsung Electronics)は3パーセントにも満たなかった。

 ところが、同年下半期になって市場シェアの構成が変化した。ファーウェイが19年に米国の制裁を受けて以降、ICチップの調達や生産能力などに制限が加わった。本来なら21年に発表する予定だった「Mate 50」シリーズは1年遅れの22年にやっと市場に出た。

 そしてこの1年の空白の間に、ファーウェイのシェアはアップル、オッポ、シャオミ、Vivoなどに分け取りされた。

 IDC中国の22年9月の報告によれば、20年下半期からの制御不能な市場インパクトによってアンドロイド型オペレーションシステム(OS)のスマホのトップメーカーファーウェイが不在の中、600米ドル以上の高級スマホ市場ではアップルのシェア拡大が続き、21年末にはとうとう76.9パーセントになった。

 その後アンドロイド型スマホ各社が22年から高機能機種を次々に市場投入し、アンドロイド型のシェアは合計で30.5パーセントまで回復したが、それでもアップルのシェアは69.5パーセントあり、依然大きな差が存在した。

 23年に入ると、いよいよファーウェイの反転攻勢が始まった。市場調査会社「カウンターポイント(Counterpoint Technology Market Research)」の4月27日のデータによると、23年第1四半期の中国スマホ市場の販売台数は前年同期比5パーセント減少し、14年以来最低の成績だったが、ファーウェイは前年同期と比べ台数を41パーセント伸ばした。中級機種「Nova 10」と高級機種「Mate 50」が5G非対応にもかかわらずユーザーから指示されたためだった。

 またIDCの7月27日発表のデータによれば、第2四半期では出荷台数が前年同期比2.1パーセントマイナスになる中、ファーウェイは前年同期比76.1パーセントという爆発的な増加を果たし、シャオミと並んで5位まで回復した。なおこの時の1位はシェア17.7パーセントのOPPO、2位はVivo、3位は20年にファーウェイから分離した「栄耀(HONOR)」、4位はアップルである。

 IDCの郭天翔(Guo Tianxiang)シニアアナリストの中国新聞社(CNS)への説明では「ファーウェイが勢いを失った時期においても、国内アンドロイド系メーカーは挑戦を重ね、中高級グレードのスマホ市場でアップルのシェアを縮小させ続けた。また長年の外部圧力による制約を受けながらも、ファーウェイは高級機種市場の23年上半期のシェアで2位を確保した」という。

 ファーウェイの高級機種市場への復帰によって、どのメーカーが大きな影響を受けるだろうか?

 長年のライバルであるアップルは、ファーウェイが「Mate 60 Pro」を発売すると、すぐにに「iPhone15」シリーズとその「秋季披露会」の日程を発表した。ファーウェイの復帰、最新鋭機種の発表が、アップルに与えた刺激はやはり強烈だったと思われる。

 また国内のメーカーでは、21年3月に「Magic」シリーズを高機能主力機種として市場に再投入し、23年年初の「MWC世界移動通信大会(Mobile World Congress)」で新機種「Magic5」シリーズを発表した栄耀が、今後はかつて同族だったファーウェイやアップルの主力機種と競争を繰り広げることになるだろう。ちなみに、栄耀のスローガンは「ファーウェイを超える」だ。

 郭天翔シニアアナリストは「ファーウェイ復帰の背景には、中国の先進プロセス技術、光学リソグラフィー、クローズドパッケージングテスト、材料技術などに突出的な発達が見られ、海外先進技術との格差はさらに縮小している」と分析する。

 中国の半導体・デイスプレイの市場調査会社「CINNO Research」の劉雨実(Liu Yushi)上席アナリストは、「スマホの重要パーツの国産化の進展とサプライチェーンの拡充で、米国依存の状態から一定程度の脱却ができ、それがファーウェイの復帰にもつながり、半導体投資市場を鼓舞する効果も表れている。今後ともサプライチェーン国産化の動向に注目し続けたい」との見方を示している。(c)東方新報/AFPBB News