中国EV業界が海外現地生産に熱視線 貿易摩擦を回避
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【8月10日 東方新報】中国の電気自動車(EV)業界が海外での現地生産に力を入れている。中国EV大手の比亜迪汽車(BYD)とブラジル北東部のバイア州政府は7月4日、同州沿岸部のカマサリ市に大規模な生産拠点を建設すると発表した。プロジェクト全体の投資額は30億レアル(約877億円)に上る。
BYDのEV現地生産発表は、昨年9月のタイに続いて2か国目。ブラジルでは2024年下半期に生産を開始し、年間15万台の生産を計画している。また、現地で5000人を超える雇用を創出する見込みという。
BYDの李柯(Li Ke)副総裁は「ブラジルに大型生産拠点を構築することは、米州市場でのBYD発展の重要な一歩だ。世界的な気候変動に対応し、人びとの生活の質を向上させる上で、大きな役割を果たすことになる」と述べている。
中国EV各社が海外現地生産に乗り出す背景には、中国EVの輸入拡大に危機感を募らせた各国政府が高関税を課す動きが出ていることがある。トルコは今年3月、中国から輸入されるEVに40パーセントの追加関税を課すと発表し、即日実施した。
保護主義を警戒する中国政府は6月、「EVを生産する中国企業の海外進出を支援し、より多くの国の人びとが科学技術の進歩の果実を受け取れるようにする」との方針を公表した。その直後、上海汽車集団(SAIC)、BYDなど中国EV各社は政府方針に呼応するように海外工場に投資すると発表している。
官民挙げてEVの海外進出を進める中国には苦い経験がある。3年前、欧米各国の第5世代移動通信システム(5G)から中国最大手の華為技術(ファーウェイ、Huawei)製品が締め出されたことが話題になった。米中関係の悪化が影を落としたのだ。
もっとも、BYDが進出したブラジルと中国の関係はこれまでになく良好だ。ブラジルにとって中国は最大の貿易相手国でもある。今年4月に中国を訪問したブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ(Luiz Inacio Lula da Silva)大統領は、到着翌日には上海にあるファーウェイの研究開発施設を訪れ、欧米各国とのスタンスの違いを際立たせた。習近平(Xi Jinping)国家主席との会談では「両国関係を貿易面にとどまらず、深化させていく」と述べ、関係深化のために15もの覚書に署名した。
もっとも中国EV業界の海外進出に「死角」がないわけではない。7月下旬、BYDがインド企業と進めていたEV合弁生産に向けた10億ドル(約143億円)規模の新規投資計画が棚上げされたと報道された。詳しくは伝えられていないが、安全保障上の懸念があるとしてインド政府が難色を示したとされる。
同じ新興国でもブラジルとインドでは中国へのスタンスは大きく異なる。一方で、気候変動問題を考えれば協力する必要があるだろう。いずれにせよ、中国のEV業界が貿易摩擦を避け、海外生産を目指すことだけは間違いなさそうだ。(c)東方新報/AFPBB News