【5月14日 AFP】メキシコの小さな町ロスアルゴドネス(Los Algodones)には、毎年数十万人の米国人がやって来る。お目当ては降り注ぐ太陽とビーチではなく、歯根管治療や審美治療だ。

 ロスアルゴドネスの四つのメインストリートには約600軒の歯科医院が軒を連ねている。ここでは、米国で掛かる費用の数分の一で治療を受けられる。

 国境検問所近くで客引きをしていた男性は「1キロ平方メートル当たりの歯医者密度は世界一だ」と冗談を飛ばした。

 米国人の間では、ロスアルゴドネスはインターネットが普及する前から口コミで「奥歯の街(Molar City)」と呼ばれていた。

 歯医者間の競争は激しく、バルコニーにはカラフルな看板が下がり、チラシにはホワイトニングや抜歯、インプラントのディスカウントの文字が躍る。

 11月から翌4月までのシーズンには毎日、ロスアルゴドネスの人口7000人とほぼ同じ数の米国人が日帰りで町を訪れる。

 夏はうだるような暑さになるが、それでもカリフォルニア、アリゾナ、ニューメキシコなどの国境沿いの州から毎日約2000人がやって来る。

■テスラの新車が買える

 カリフォルニア州から来たリネさん(65)は、インプラントを4本入れるために初めてロスアルゴドネスを訪れた。地元の歯医者の見積もりは5万7000ドル(約760万円)だった。

 リネさんは片手で口を隠しながら、電気自動車(EV)大手テスラ(Tesla)の新車が買えると笑った。

 米国とメキシコで学んだ歯科医師のカルロス・ルビオさん(63)は、患者がメキシコを選ぶ理由はまずは費用だと話した。米国から複数回通うことになってもお釣りがくる値段だという。

 米イリノイ大学シカゴ校(University of Illinois Chicago)によると、米国人の4分の1は歯科治療をカバーする保険に入っていない。「メディケイド(Medicaid)」のような低所得者向けの公的医療保険でカバーできる治療は限られている。