【3月28日 CNS】中国南部の広州市(Guangzhou)の旧市街。地下鉄出入り口近くの路上で、88歳の林宝山(Lin Baoshan)さんは折り畳み式のいすに座り、露店で自分が翻訳した2冊の本を売っている。「88歳の著者のサイン本販売・交流会」という看板を掲げて。

「私が翻訳した本、読んでみないか?」。あわただしく通り過ぎる通行人に向かい、老人が小声で声を掛ける。ときおり立ち止まった人が本を手に取る。「マルコポーロ 世界の果てへの冒険」という書籍のカバー袖には、翻訳者としてスーツとネクタイ姿の林さんの写真が載っている。

 林さんの顔は深いしわが刻まれ、背中は丸みを帯びている。毎日午後4時から、公園前の歩道や地下鉄出入り口で本を売るのが日課。午後10時半頃に荷物をまとめ、近くの料理店でおなかを満たし、地下鉄の終電で帰宅する。家族はすでに寝ており、ゆっくり風呂に入り、新聞を読んで、午前2時に就寝する。

 69歳から本を売り始めて19年間、これまでに約7700冊を販売した。年間400冊を売っている計算で、簡単な数字ではない。

 林さんはかつて29年間にわたり病院で医師として働き、その後に医学雑誌の編集者を務めた。1997年、妻が白血病にかかり、入院する妻の世話をすることに。ベッドの横で寄り添うかたわら、英語の雑誌を翻訳していた。最初の翻訳本として短編小説集『人を探して』を出版し、家族や友人には内緒にして、路上で本を売るようになる。

「好奇心で本を買う人もいれば、私に同情して買う人もいる」と林さん。ある時は若いカップルが本を買い、林さんと記念写真を撮った。こういう触れあいが、林さんの喜びでもある。ある人は中国で最も使われるSNS「微信(ウィーチャット、WeChat)」で、林さんのグループチャットを作った。林さんは露店でいすに座りながら、スマートフォンを使ってやりとりをする。大学生や出稼ぎ労働者の女性、旅行家、写真家、音楽家など交流の輪が広がっている。論語には「以文会友(文をもって人と会す)」という言葉があるが、林さんは「以本会友(本をもって人と会す)」日々を楽しんでいる。(c)CNS-羊城晚報/JCM/AFPBB News