【3月23日 東方新報】中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、2022年12月時点で中国のネットユーザー数は10億6700万人に上り、このうちショート動画ユーザー数は10億1200万人と初めて10億人を突破した。

 日本でショート動画と言うと一般人が投稿した動画が中心で、「○○の曲に合わせたダンスがティックトック(TikTok)で流行」というような話題が目立つ。中国では、海外でTikTokを運営する抖音(Douyin)と快手(Kuaishou)が二大勢力だが、いずれも個人の投稿だけでなく、テレビショッピングのようなライブ販売などのeコマースの場として活用されている。口コミを重視する中国の伝統的価値観と最新技術が融合した形だ。特にコロナ禍でステイホームの時期が長く続き、eコマースが急激に広まった。

 例えば、中国政府の2021年の学習塾規制強化により壊滅状態に陥った教育サービス大手の 新東方教育科技集団(New Oriental Education & Technology Group)は、2022年に抖音で、講師が英語を教えながら農産物などを売るライブ配信を開始。売り上げを大きく伸ばし、株価も上昇した。

あらゆる業界がライブ販売に参入しており、中国で2022年のライブ販売のGMV(総流通取引額)は3兆5000億元(約67兆2500億円)規模に膨らんだ。

 ライブ販売以外でもショート動画の用途は広がっている。上海市の同済大学(Tongji University)の物理学教授だった70代の女性、呉於人(Wu Yuren)さんは2021年から鍋やほうき、風船を使った1分ほどのユーモア実験動画を投稿し、「科学おばあちゃん」として注目され、フォロワー数はすぐに100万人を超えた。科学や自然にまつわる知識を分かりやすく紹介する「科普博主(科学普及ブロガー)」が次々と増えている。

 個人の投稿やライブ販売から教育、観光、農業支援までジャンルは無限にあり、中国社会科学院財経戦略研究所の李勇堅(Li Yongjian)教授は「ショート動画は有形の商品だけでなく無形のサービスも含めて、あらゆるものを放送できる」と話す。

 ショート動画が多くの人をひきつける理由に、「人材」の豊富さがある。快手では2022年6月時点で、1万以上のフォロワーを持つクリエーターが200万人を超えている。抖音や快手などのプラットフォーマーが互いに競争する中、クリエーターに動画作成の指導をして育成したり、利益を確実にフィードバックする仕組みを強化したりして、優良コンテンツを増やそうとしている。

 一方、ショート動画の急激な普及と並行して、「今や町中で、電車の中で、自宅で、老若男女の誰もがショート動画を見ている」という批判も出ている。特に子どもの「動画中毒」に対する風当たりは強い。抖音や快手は2019年、利用の際は実名認証を必要とし、14歳未満の利用時間を1日40分に制限するなどの対策を発表しているが、「親の名前で登録するなど、いくらでも抜け穴がある」という指摘もある。

 中国国家ラジオテレビ総局は今年2月下旬、ショート動画の管理を強化すると発表した。中国政府は2021年に「18歳未満のネットゲームは週末のみ、しかも1日1時間」とする「ゲーム制限令」を出すなど、未成年者のインターネット使用をめぐる規制を強化している。政府としてはeコマースを成長産業の一つとして促進しているが、子どものネット依存は国の将来にかかわる深刻な問題にもなっている。政府も企業もアクセルとブレーキのバランスに苦慮しているのが現状だ。(c)東方新報/AFPBB News