【3月22日 東方新報】ミスを恐れて仕事をせず、形式だけで何もしない公務員の幹部を追及する動きが中国で広まっている。そうした役人たちは「躺平式幹部(寝そべり幹部)」と呼ばれている。

「躺平(Tanping、寝そべり)」とはもともと、高学歴や出世、結婚などを放棄して無欲な生活を送る若者たちを指して、2021年ごろに生まれた言葉だ。経済成長とともに激しくなる一方の競争社会からドロップアウトする生き方で、「寝そべり族」「寝そべり主義」という言葉が流行となった。

 その派生語と言える「寝そべり幹部」は、「会議だけして仕事をしない」「口だけで手を動かさない」「指示が来るまで仕事をしない」「指示があっても仕事をしない」などの不作為が習慣化した役人を指している。汚職を取り締まる中国共産党中央規律委員会は「寝そべり幹部を認めてはいけない」と呼びかけ、全国各地で摘発運動が広がっている。

 江西省(Jiangxi)萍郷市(Pingxiang)では昨年5月から今年3月までに、「責任の欠如」「任務の未遂」「怠惰」などの理由で「寝そべり幹部」173人を処分にした。市民が求める不動産登記手続きをずさんに処理したり、公衆トイレの修繕作業を途中でやめてしまったりなどの不作為が追及された。

 江蘇省(Jiangsu)浜海県(Binhai)は、公共機関および国有企業の勤務者に対し、周辺に「寝そべり幹部」がいないか探すよう指示。安徽省(Anhui)宣城市(Yicheng)は、中国で最も利用されているSNS「微信(ウィーチャット、WeChat)」の公式アカウントにQRコードを貼り付け、住民から「寝そべり幹部」に関する通報を受け付けるようにした。SNSを通じて住民に通報を奨励する自治体はかなりの数に上る。

 変わったところでは、貴州省(Guizhou)遵義市(Zunyi)が、ノロノロとした仕事ぶりで大衆の利益にこたえない役人に不名誉な「カタツムリ賞」を与えるとしている。

 中国では毎年、旧暦の大みそかに日本の紅白歌合戦のような国民的番組「春節聯歓晩会」が放送される。今年は1月21日に放送され、その中で「寝そべり幹部」を題材にした寸劇が披露された。道路が陥没して穴ができたのに、役所の主任は放置する。「仕事をするとミスが起きる。何もしなければミスが起きない」と勝手な主張をしてソファーに寝転がっている。すると、新たに上司として着任した局長が穴に落っこちてしまい、主任は処分されるというストーリー。人気俳優による演技も巧みで、国民の間で話題となった。

 中国では習近平(Xi Jinping)国家主席が就任以来、役人の不正行為を取り締まる「反腐敗運動」が行われ、特権を悪用したり庶民を苦しめたりする役人が全国で処分され、庶民はもろ手を挙げて歓迎した。

 一方、最近まで猛威を振るった新型コロナウイルスを巡っては、状況が刻々と変化する中、指示が出るまで動かない役人がおり、地域の封鎖や検査態勢の確立、食料・医薬品の確保などで適切な対策が取られなかった事例も報告されている。まさに「寝そべり式幹部」の弊害だ。

 中国では以前から、公務員の仕事を「鉄飯碗」と呼んでいる。会社のように倒産せず安定しており、「割れない鉄の茶碗でご飯を食べている」という意味。生産性が低く、市民の常識とずれた仕事ぶりへの批判も含んでおり、日本で言う「親方日の丸」と同じニュアンスだ。「寝そべり幹部」は急速に広まっているフレーズだが、役人の仕事ぶりを改めさせる、「働き方改革」ならぬ「働かない改革」は古くからの課題でもある。(c)東方新報/AFPBB News