【3月17日 東方新報】中国南部の広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)柳州市(Liuzhou)では毎年3月に、家電などを無料修理してもらえる「雷鋒(Lei Feng)市場」が開催される。200~300メートルにわたって家電修理、自転車修理、時計修理などの看板を掲げた屋台が軒を連ねる。出店している人たちは全てボランティアだ。

 市場の名前の「雷鋒」とは、1962年に電柱の輸送中に頭を強打して殉職した中国人民解放軍の模範兵士。生前の献身的な仕事ぶりが評価され、「雷鋒に学ぼう」というスローガンで奉仕活動が奨励されるようになった。

 柳州市の雷鋒市場は、1965年から地元国有工場の従業員が中心になって開いている住民サービスだ。「結婚してからは、毎年市場に来て修理のお願いをしています。近所の人たちは毎年この日を楽しみにしています」と語るのは66歳の李柳蘭(Li Liulan)さん。歴史ある市場にはお年寄りの熟練工が目立つ。

 84歳の張志林(Zhang Zhilin)さんは「若い頃は電気グラインダーを使って製品の仕上げをしていました」と語る。雷峰市場では電気グラインダーの技術を駆使して、多い時には1日に20本以上の包丁を無料で研ぐという。今では卓越した包丁研ぎの技から「老包丁職人」と呼ばれる。

 80歳の劉光傑(Liu Guangjie)さんは、ちょうど電子レンジを修理中だった。劉さんは「昨今、家電製品はどんどん賢くなり、修理の難度も上がっています。ですが、難しい修理をすることで自分の知識を豊かにするができます」と話す。退職前はエンジニアだった。在職中から市場で50年以上、家電を修理している。

 中国では「雷鋒に学ぼう」という組織的な奉仕運動と区別する形で、自発的な個人のボランティアが意識されたのは2008年だといわれる。その年の5月に、死者・不明者が約9万人となる四川大地震が起き、多くのボランティアが被災地に入って救援活動を繰り広げた。その年の8月には北京五輪が開催され、大会運営などで個人のボランティアが活躍した。

 近年、注目されているのが高齢者の生きがいとしてのボランティア活動だ。中国の平均寿命は78.2歳(2022年)と本格的な長寿社会を迎えている。しかし、貧しい時代に生まれ育った高齢世代と豊かな一人っ子世代の現役世代たちとの価値観の溝は深く、相互理解は難しい。要するに話が合わないのである。だからといって高齢になって引きこもっているとさらに孤立してしまうからやっかいだ。中国では定年後の「第2の人生」の迎え方は想像以上に難しい。「雷鋒市場」で生き生きと活躍するお年寄りたちの姿を中国メディアが大きく取り上げるのも高齢者社会の課題が背景にあるからだろう。

 今年は雷鋒の殉死から60年になり、中国各地で雷鋒に関するシンポジウムが開かれている。雷峰も生きていたら82歳の高齢者。模範高齢者となった彼に、高齢になってもボランティアとして活躍する方法を聞きたいところだ。(c)東方新報/AFPBB News