【3月17日 東方新報】平均標高が3000メートルを超える中国西部の青海省(Qinghai)で生態系の回復が進んでいる。豊かさを取り戻した自然を観光に活用することで、住民たちに利益をもたらしている。

 青海省の面積は日本の倍に近い約72万平方メートルの広さを誇り、草原、森林、湖沼から砂漠、高山、氷河まで多様な顔を持つ。人口はわずか500万人台。チベット族やモンゴル族、漢族など多くの民族が暮らし、牧畜で生計を立てる人が多い。長江(揚子江、Yangtze River)、黄河(Yellow River)、瀾滄江(Lancang River、下流は東南アジアのメコン川)の水源地で、「中華の水塔」と呼ばれている。

 青海省では一時、地球温暖化による気温の上昇や森林の過剰伐採など複数の要因で、砂漠化や草原の退化が進行し、野生生物が減少した。三大河川の源流(三江源)一帯を中心に中央政府や青海省がさまざまな環境保護措置を執り、現在は生態系の回復が進んでいる。三江源国立公園には2022年だけで3億2000万元(約61億6138万円)近い予算が投入されている。

 青海省のシンボル・青海湖裸鯉の生息資源量は2002年の2592トンから2022年は11万4100トンにまで回復。青海湖の湿地に生息する水鳥は、2017年の92種33万羽から2021年は97種57万羽に増えた。中国の国家1級重点保護野生動物に指定されているユキヒョウの個体数も増え、各地で目撃されるようになった。「雪山の王」と呼ばれるユキヒョウの生息は、標高の高い場所の生息環境が良好であるかを示すバロメーターだ。

 青海省は国立公園の各地区に「生態系管理担当者」を配置。牧畜民らが地域の自然や野生生物に異常がないか巡回をしている。月収は平均1800元(約3万4657円)で、生態系を保護することが住人の増収につながっている。

 青海省は近年、エコ・ツーリズムにも力を入れている。観光客が訪れやすいようアクセスルートや観光スポットの整備を進め、大自然や歴史遺跡の観光、ラフティング、草原のコンサート、美しい星空の下のキャンプなど豊富なツアーを組んでいる。ハダカムギを炒(い)って粉にしたチベット族の主食・ツァンパ、羊肉の料理、バター茶、ヨーグルトなど地元ならではの料理も楽しめる。

 大峡谷で有名な玉樹チベット族自治州(Yusyu Tibetan Autonomous Prefecture)昂賽郷(Angsai)では、牧畜民の民家を訪れるなどの自然体験ツアーを実施。観光案内の研修を受けた家庭が観光客を受け入れ、「おもてなし」に努めている。各家庭は平均3万7000元(約71万2409円)の増収となっている。

 経済成長が続く沿岸の都市と比べ、青海省は「遅れた地域」「何もない場所」というイメージもあった。しかし最近は「豊かな自然はそれ自体が金銀同様の価値がある」という考えが広まっている。中国ではコロナ禍のさなか、「密」を避けるキャンプがブームとなり、大自然を楽しむ観光が定着してきている。青海省は「何もない」地域どころか、あらゆる自然が「何でもある」地域として、脚光を浴びようとしている。(c)東方新報/AFPBB News