【2月21日 AFP】ウクライナの首都キーウへのジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領の電撃訪問は19日未明、米首都ワシントン郊外の軍用空港の格納庫から始まった。

 午前4時、バイデン氏は世界中のメディア、自国の政治家や国民にも気付かれることなく、空軍のボーイング(Boeing)757型機(通称C32)に乗り込んだ。米大統領が通常外遊で使用する専用機よりも小型の要人専用機で、駐機場所もいつもより離れていた。すべての窓にはシェードが下ろされていた。

 バイデン氏と側近、少人数のボディガードと医療チームを乗せ、同機は15分後に離陸。同行の報道陣は記者1人、カメラマン1人に絞られた。

 選ばれた米紙ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)のサブリナ・シディキ(Sabrina Siddiqui)記者は、午前2時15分にアンドルーズ空軍基地(Joint Base Andrews)に呼び出されたことを、ホワイトハウス(White House)の許可を得て公表した。携帯電話は没収され、約24時間後のキーウ到着まで返却されなかった。

 離陸から約7時間後、独南西部ラムシュタイン(Ramstein)にある米空軍基地で給油。ここでも窓のシェードは下ろされたまま。誰も機から降りることはなかった。

 次の目的地は、米国が主導するウクライナ軍事支援の国際拠点となっているポーランド南東部のジェシュフ・ジャションカ空港(Rzeszow–Jasionka Airport)だった。

■鉄道ファン

 ここで車に乗り換えた。その間、シディキ氏とAP通信のカメラマン、エバン・ブッチ(Evan Vucci)氏がバイデン氏本人を目にすることはなかった。

 大統領に同行する報道陣は車列に合流することが多いが、今回の車列は行き先の案内もなく、サイレンも鳴らさず、これまた異例だった。

 到着したのはウクライナ国境に近いポーランドのプシェミシル・グロウニー(Przemysl Glowny)駅。記者とカメラマンは8両編成の列車に乗車するよう促された。時刻は午後9時15分。ここでもバイデン氏は姿を見せなかった。

 列車が取ったルートは、膨大な支援物資をウクライナに運び、逆にウクライナから避難する市民を乗せてくる路線だ。シディキ氏によると、「乗客」は大半が「重武装」の警備要員だった。

 バイデン氏は鉄道好きを公言している。上院議員時代にデラウェア州の自宅からワシントンまで電車通勤したことをよく話題にする。「アムトラック(全米鉄道旅客公社)・ジョー」の異名を持つほどだ。

 だが、今回は10時間も列車に揺られることになった。現代の米国大統領としては、あり得ない鉄道旅行だった。紛争地のただ中へ向かう列車。しかも、アフガニスタンやイラク訪問時のような米軍の護衛もなかった。

 列車は日の出とともにキーウに入った。大統領の下車は午前8時7分ごろ。

 バラク・オバマ(Barack Obama)政権下の副大統領時代に同地を訪れていたバイデン氏は、「再訪できてうれしく思う」と語った。(時間は現地時間)(c)AFP