■「諸行無常」

 ツェリン氏は、中国と直ちに対話を再開するのは「難しい」と認めながらも、希望を捨てていない。

「仏教徒として、われわれは不変を信じていない。諸行無常ということだ」とツェリン氏は話した。「中国も必ず変わる。問題はそれにどれくらいの時間を要するかだ」

 だが、最近の中国は批判を受け入れない姿勢を強めている。香港で(民主化運動を)弾圧し、台湾沖では大規模軍事演習を行った。イスラム系少数民族ウイグル人に対する「ジェノサイド(集団殺害)」をめぐっては、米国から非難されている。

 ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)受賞者でもあるダライ・ラマは、かつて精力的に世界を回っていたが、近年は行動に陰りが見られる。中国側としては、ダライ・ラマが亡くなればチベット亡命政府の大義も尻すぼみになるとみて、対話を封印しているというのが観測筋の読みだ。

 ツェリン氏はこれを否定した。亡命政権として民主制度を確立するという数少ない成功例となったダライ・ラマの取り組みは、「必要ならあと何十年かかってもわれわれが闘い続けられる勢い」をもたらしてくれるだろうと話した。

 亡命チベット人は、ダライ・ラマ14世が亡くなった後の欧米諸国との協調についても静かに語り始めている。米国はすでに、中国のいかなる選択をも認めない姿勢を示している。

 1995年、中国政府はチベット仏教第2の高位者パンチェン・ラマ(Panchen Lama)を独自に任命する一方で、ダライ・ラマ14世がパンチェン・ラマとして認定した当時6歳の少年を拘束した。人権団体はこの少年を世界最年少の政治犯と呼んでいる。

 輪廻(りんね)転生するとされるパンチェン・ラマの認定は、ダライ・ラマにのみ委ねられるものだとツェリン氏は指摘する。

「中国は人的にも資金面でもあらゆるリソースを手にし、プロパガンダや他国への押し付けにたけている」とツェリン氏。「しかし彼らとて、つかみどころのないものを相手にすることはできない。プロセスを一切見せないという法王(ダライ・ラマ14世)の決断は非常に賢明だと思う」 (c)AFP