【1月22日 AFP】古代エジプト王(ファラオ)が永遠の命をもたらす神としてあがめたナイル川(Nile River)。人間の活動に伴う気候変動や汚染、開発の影響で、危機に直面している。世界で2番目に長く、約5億人の生命線であるナイル川は、豊かな流れを維持できるのか。AFP取材班がエジプトからウガンダまでの各地で、衰えつつある現状を取材した。

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■進む塩害

 エジプト沿岸部から15キロ内陸に入った農村集落カファルエルダワル(Kafr El-Dawar)には活気があった。危機意識は全く感じられない。

 ただ、地元農家のサイエド・モハメドさん(73)は、すべてが順調というわけではないと語った。地中海からの塩分が広い範囲で土地にしみ込み、植物を枯らしたり、弱らせたりしている。農家は、野菜の風味も失われたと嘆く。

 土壌の塩分濃度を薄めるため、ナイル川からより多くの水をくみ上げる必要が出てきた。

 40年間、モハメドさんらは軽油や電気を大量消費するポンプを使い続けてきた。村民の収入は、インフレや通貨エジプト・ポンドの下落で大きく目減りした。燃料費負担は重い。そうした事情から、ナイル川デルタの一部では、耕作放棄地が生まれている。

 一方で、農家の収入拡大を狙い、太陽光発電を使った新たなかんがい設備も導入されている。離農を防ぐのが目的だ。カファルエルダワルでは、国連食糧農業機関(FAO)の資金を得て400枚のソーラーパネルを設置。モハメドさんは、0.5ヘクタールの農地を水で潤すことが可能になった。

 地元当局のかんがい責任者はAFPに対し、太陽光発電の活用で、農家の水くみ上げコストは約半分で済むようになったと説明。さらに、余剰電力の売却も可能だという。

 しかし、モハメドさんの子どもや孫の中に、跡を継ごうとする者はいない。国連環境計画(UNEP)によると、地中海が、この地域の優良な農地10万ヘクタールをのみ込もうとしている。農業生産高の30~40%をナイル川デルタで得ているエジプトでは、農地の喪失は大打撃なのだ。