【12月6日 東方新報】「火鍋、上海ガニ、ビール…当然、おいしいモノがあれば何でも食べますよ。だって4年に1回の大イベントですよ」

 そう話すのは、サッカーファンの中国人男性。普段は食にはあまりこだわりはないが、ワールドカップ(W杯)を見る時は特別で、おいしいモノを食べるのがしきたりになっているという。

 自国の代表が出ていなくても中国でW杯は熱い。試合はもちろんだが、それだけではない。サッカーも大好きだが、それに負けないくらい食べるのも大好きな中国人の消費も熱い。

 先の男性は続ける。

「今までは『どこのレストランに行くか?』って話だったけど、今回は、『誰の家で見る?』と変わりました。試合を見るならやっぱり盛り上がりたいから、サッカーファンの仲間同士で、順番に家を観戦会場にしています」

 今回のW杯カタール大会(2022 World Cup)では、試合の中継時間は中国では夕食の時間帯から未明になる。夕食に加え、夜食の消費も期待できるが、コロナ禍の影響もあってか、今大会では男性のように自宅で観戦を楽しむ人が多いという。

 その結果、デリバリーの売り上げが好調だ。

 デリバリー大手の美団(Meituan)によれば、W杯開幕初日の売り上げは通常に比べ、ビールが43%の増加。スナック類は55%も増加したが、中でも中国人が駅の待合室などでポリポリ食べているヒマワリの種が人気。もちろん観戦中のビールのお供として最高だ。

 デリバリーサービスでは注文の急増を、他業種から急きょ集めた臨時職員でしのいでいる。北京の食材デリバリーで働く張(Zhang)さんも、飲食店からの転職組だ。仕事は、インターネットで受けた注文に応じて、配達する商品を準備する仕分け。超特急で研修を受けて3日目にはもう一人前とみなされた。午前7時から始まる作業は、8時頃が最も忙しく、時には午後11時近くまでおよぶ。張さんは、上司から渡された作業手順を記した一枚の紙を時折頼りにしながら、1日に1500個近くの品物を仕分けするという。

 張さんは、サッカー観戦時の定番であるビールやつまみの手羽先や串焼きに加え、寒くなるに伴い、鍋の具材がよく売れるようになったのに気づいた。北京で鍋と言えば、羊肉のしゃぶしゃぶだ。

 異例の冬季開催となった今回のW杯では、観戦のお供に鍋料理の人気が上がったのも特徴。具材のみならず、家庭用の電気鍋もよく売れている。

 食以外での消費では、ホテルの宿泊予約が増えたというのもユニークな点。自宅観戦派の一歩先を行っていると言うべきなのか、観戦のためにわざわざホテルに宿泊し、「観戦専用ルーム」で試合を楽しむ人も多いという。

 旅行予約サイト「同程旅行(LY.COM)」によれば、「観戦ルーム」派の64%を占める主な客層は25歳以下。男性が63%を占めるが、女性の顧客も増えつつあるという。

「観戦ルーム」に宿泊する理由について、若い世代では多くが、友達と集まって観戦ムードを盛り上げるためであるという。一方、中年世代では、夜中に家族の就寝を邪魔しないためだという。今夜も中国のどこかのホテルには、一人ビール片手にテレビの前で一喜一憂する中年男性がいるのだろう。旺盛な消費意欲が前提とは言え、その姿は優雅なようにも、ちょっと寂し気なようにも見るかもしれない。(c)東方新報/AFPBB News