【11月27日 AFP】5年前に米ハリウッドで性的虐待を訴える声がセクハラ告発運動「#MeToo(私も)」に火をつけて以降、映画などの撮影現場で「インティマシー・コーディネーター」の需要が急増している。

 一方、芸能界では今なお、こうした専門家を受け入れることへの抵抗感や立場の違いによる力関係、性的な場面を拒むことに対する俳優側の不安などが根強くあると専門家は指摘する。

■ワインスタイン騒動後、業界に変化

 性的な場面での動作やしぐさを決め、俳優の性器などを隠す装具を用意し、監督と俳優らの意向のすり合わせを行う専門家、インティマシー・コーディネーターの歴史は浅い。注目されるようになったのは、2017年に当時ハリウッドの大物プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)受刑者による俳優たちへの性的暴行が明るみに出てからだ。

 米ニューヨークを拠点とするインティマシー・コーディネーターのクレア・ウォーデン(Claire Warden)氏は、「業界に導入された際は、監督や一部の俳優、プロデューサーからの抵抗が大きかった。その頃に比べると、驚くべき変化だ」と話す。

 ウォーデン氏の推測では、現在ハリウッドの撮影現場で働いている同業者は60〜80人ほど。自身は、専門団体「インティマシー・ディレクターズ・コーディネーターズ(IDC)」と協力して短期間で専門家を養成する仕事に携わっている。

 2017年以前は、インティマシー・コーディネーターの活動の場は劇場が中心だった。映画やテレビ番組の撮影でヌードシーンがある場合、俳優たちには頼れる専門家がほとんどおらず、衣装部に間に合わせの「前貼り」を作ってもらっていた。

 米ケーブルテレビ局HBOはワインスタイン騒動以降、すべての番組制作にインティマシー・コーディネーターを置くよう求めている。

 専門の装具を扱う会社も複数あり、ストラップレスのTバックショーツやパッド、隠したいパーツに使用するシリコン製素材の「バリア」、さまざまな肌の色に合わせたボディーテープなどが販売されている。

 俳優のシドニー・スウィーニー(Sydney Sweeney、25)は米娯楽誌バラエティ(Variety)のインタビューで、こうしたプロが常に現場にいるおかげで「不快なことがなくなった」と話している。

「事前に承諾していることでさえも、当日の現場で『気が変わったのならやらなくてもいいよ』と言ってもらえる」として、「とても安全な環境だ」と説明している。

■「声を封じようとする」業界

 だが、誰もがインティマシー・コーディネーターを歓迎しているわけではない。

 俳優のクリスティナ・リッチ(Christina Ricci、42)は同じくバラエティ誌のインタビューで、性的な場面の撮影に不快感を覚えていることを制作サイドに伝えたところ、「やらなければ訴える」と脅された経験があると明かした。

「2017年になって突然、俳優たちが声を上げ始めたわけではなく(中略)私たちはそれ以前から意見していた」とウォーデン氏。「業界には、そうした声を封じようとする動きがあった」

 撮影の際、俳優は同意権にこだわるなと言われ、「ノー」と言うのは「危険」だと諭されることも多いと話す。

「(権利を要求すれば)気難しくて要求の多い俳優だと思われ、仕事がもらえなくなるという思い込みが芸能界にはある」

 だが、ティックトック(TikTok)でインティマシー・コーディネーターの仕事について語り、50万人のフォロワーを持つジェシカ・スタインロック(Jessica Steinrock)氏は、自分たちの仕事はスタント・コーディネーターと同じように撮影時の俳優へのリスクを減らし、より良い演技を引き出すためものだと主張する。