【11月24日 東方新報】中国メディアによると、自動運転事業を手がける中国のユニコーン企業「小馬智行科技(Pony.ai)」が事業の再編を進めている。自動運転システム開発のためのツールやサービスを担当するインフラ部門とデータ部門を縮小し、人員削減も進んでいるという。

 小馬智行の彭軍(Peng Jun)CEO(最高経営責任者)は11月1日、「5年以内に自動運転タクシーの大規模事業化が実現すると確信しているが、その前に事業効率を上げ、市場の変化に対応しなければならない」と全社員にメールを送った。中国のSNSでは、同社社員という匿名のアカウントで「『あなたの仕事は今日までだ』と突然、解雇された」という投稿があった。小馬智行科技は取材に対し「人員を半減するという報道は誤り。ビジネス構造を調整しているが、経営状態は良好だ」と説明している。

 小馬智行は、彭軍氏と現CTO(最高技術責任者)の楼天城(Lou Tiancheng)氏が2016年12月に創業した。彭氏は中国の清華大学(Tsinghua University)を卒業後、米スタンフォード大学(Stanford University)で博士号を取得し、中国IT大手「百度(Baidu)」で自動運転の主任設計士を務めた経歴を持つ。楼氏は清華大学時代から世界的なプログラミングコンテストに何度も入賞し、「楼教主」というカリスマ的異名が付いている。米グーグル(Google)や百度で勤務した後、彭氏とともに起業した。

 小馬智行は先進的な技術力により瞬く間に中国を代表する自動運転企業に躍り出て、トヨタ自動車(Toyota Motor)など多くの企業から出資を受けている。これまでに北京市、上海市、広州市(Guangzhou)、深セン市(Shenzhen)などで運転席にスタッフを乗せた上での自動運転タクシーの実証実験を始めている。今年6月には北京市の経済開発区エリアで、運転席を無人にした自動運転タクシー(スタッフは助手席に乗車)を始めた。

 一方で、自動運転の大規模な商業化にはなかなか進めないでいる。自動運転には、当初から無人運転を目指す企業と、運転支援システムを改良しながら導入していく企業がある。無人運転路線の小馬智行に対し、米テスラ(Tesla)のような運転支援路線の企業が実用化で大きくリードしているのが実情だ。ある技術専門家は「多くの車と人が密集して行き交う大都市で無人運転を実用化するのは、人間を月に送り込むことより難しい」と語る。

 データ分析会社によると、中国で1~10月の自動運転企業に対する投資は67件、計143億元(約2835億円)で、金額は前年同期比の61%にとどまっている。投資市場で「自動運転は早期のリターンが見込めない」という心理が広がり、中国メディアは「自動運転業界に『寒波』が襲っている」と報じている。

 世界的にも米フォード・モーター(Ford Motor)や独フォルクスワーゲン(Volkswagen)が出資する自動運転技術開発企業「アルゴ AI」が10月に突然、事業の停止を発表。大手自動車企業が自動運転を断念したとして衝撃を与えた。自動運転技術を開発する米オーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)も人員削減や資産売却を進め、身売りを検討しているといわれる。

 厳しい情勢の中、小馬智行は自動運転タクシー以外に活路を切り開こうと、物流大手「中国外運(Sinotrans)」、重機大手「三一集団(SANY Group)」と合弁会社「青騅物流(Cyantron)」を設立。自動運転トラックを納入し、スマート物流を進めている。複数の自動車メーカーに運転支援技術を提供することも打診しているという。自動運転業界は、吹きすさぶ「寒波」をしのごうと懸命となっている。(c)東方新報/AFPBB News