【11月17日 東方新報】中国・湖南省(Hunan)の小都市・湘郷市(Xiangxiang)に住む39歳の女性、章(Zhang)さんは最近、「代行クッキング」を始めた。食事をしたい客の自宅を訪れ、本人に代わって台所で調理をする仕事だ。基本はおかず4品、スープ1杯のセットで調理代が68元(約1336円)。おかず6品なら88元(約1730円)、8品は108元(約2123円)と2品ごとに20元(約393円)ずつ料金が上がる。食材はその家にあるものを使うが、家主が希望すれば事前にスーパーで食材を購入し、レシートを渡して実費を受け取る。

「私には小さな子どもがいてフルタイムで働くのが難しいんです。配達員、工場のパート、家事手伝い、いろいろ仕事をしましたが、自分が得意な料理を生かせないかと思って代行クッキングを始めました」と話す章さん。「湘郷市は小さな街なので電動自転車があれば注文主の家にすぐ行けます。交通費は市街地なら無料、郊外の場合は10元(約196円)だけ請求します」。1日に1、2軒の注文を受け、月収は3000~4000元(約5万8977~7万8636円)。「パートタイムでこれだけ稼げれば満足です」と笑顔を浮かべる。

 こうした代行クッキングは中国各地で広まっている。四川省(Sichuan)成都市(Chengdu)の「95後(1990年代後半生まれ)」世代の女性、馮(Feng)さんは4年間、建設会社で工程コスト業務に従事していたが、「勤め人でなく起業したい」と代行クッキングを始めた。1か月1600~1800元(約3万1248~3万5154円)の月額制で何度でも注文できるサブスクシステム(1日1食まで)を取り入れている。馮さんは「街のあちこちに出向いて自分の能力で直接、人の役に立てることにやりがいを感じています」という。

 中国では高収入の家庭は家事手伝いの女性を雇うことが多く、自宅の家事を他人に委ねることに抵抗感は少ない。ただ、代行クッキングを頼むのは若者が多い。最近の中国の若者は、食事はデリバリー、買い物もネットで注文、運動不足になったら自宅でオンラインフィットネスなど、外出せずに済ますライフスタイルが広がっている。「懶人経済(怠け者経済)」という言葉も定着している。

 また、IT業界などで「996(午前9時から午後9時までの勤務が月~土曜の6日間続く)」と言われるように、収入が高い代わりに残業や休日出勤も多い仕事が増え、「疲れ切って自宅で料理をする気が起きない」という若者も増えている。さらにコロナ禍でステイホームが続き、「デリバリーの食事も飽きた」という人が多く、手作りの料理を求めて代行クッキングのニーズが高まっている。

 26歳の女性、張さんは8月に代行クッキングを始めた。SNSで告知するとあっという間に注文が殺到。「これは巨大な市場がある」と感じた張さんは同業の人たちに呼びかけ、代行クッキングネットワークを作った。常時40~50人が登録し、効率的に注文に応じている。料金は1回ごとの支払いが可能で、1800~3500元(約3万5154~6万8355円)の月額制もある。

 一方で懸念も出ている。ある専門家は「代行クッキングは家事手伝い業に含まれるが、必要な職業訓練証明書を持たずに仕事をしている人が大半。家事手伝い派遣会社なら保険に加入しているが、代行クッキングで調理中にトラブルが起きた場合、補償をどうするのかが不明確だ」と指摘。市場が拡大すると共に労働環境の整備が必要という声が高まっている。(c)東方新報/AFPBB News