【11月22日 東方新報】中国である民事裁判の判決が注目されている。中国メディアによると、事の発端は次のようなことだった。北京市から約150キロ離れた河北省(Hebei)唐山市(Tangshan)。2022年初めに地下駐車場を購入した徐(Xu)さんは、その駐車場に電気自動車(EV)の充電ステーションを設置しようとした。電気会社に問い合わせると、不動産管理会社の「同意書」が必要だという。管理会社に問い合わせると、電気容量が不足したり、火災の恐れがあったりするから同意できないという。その代わりに管理会社が地上に設置した有料の充電スタンドを使うようにと提案してきた。

 徐さんは地方裁判所に提訴し、「管理会社の充電スタンドは、充電料金が不当に高額で、(電圧や電流なども)車種ごとの仕様になっていないため安全性に問題がある」と訴えた。そもそもEVなど新エネルギー車は環境に優しく、騒音も出さない。中国政府は輸出拡大を視野に入れて国内でも普及させようとしている。

「電気容量が不足する」「火災が起きるかも」という管理会社の言い分を認めたら、EVの普及は遠のくばかりだ。ところが、実際には徐さんと似たようなケースが全国で発生しているらしい。

 探してみると、2021年12月に、ある新エネルギー車メーカーの会長の個人ブログに、充電ステーションが地域の反対にあって、なかなか設置できないというユーザーの苦情がアップされていた。実際、同社は21年の1年間に4万台以上の新エネルギー車を納入したが、車体と同時に注文された充電ステーション2万台近くは管理会社などの同意が得られず発送できなかった。

 中国では個人の権利と公共の利益が衝突して、民事裁判になった場合、よほどのことがない限り公共の利益が優先される傾向にあるといわれる。この裁判では徐さんが「個人の権利」を、管理会社が「公共の利益」を代表している
ように見える。

 徐さんから何度頼まれても同意書を出すことを拒否し続けた管理会社も、この構図の裁判で負けることはないとタカをくくっていたのではないだろうか。

 ところが判決は管理会社に同意書を出すよう命じた。理由は、充電ステーションは電力会社が容量や火災リスクなどを十分に調査し上で設置するため、これを設置することは所有者の法的権利の行使だと認めたのだ。

 中国人民大学(Renmin University of China)行政学院の楊宏山(Yanghongshan)教授・副学長は「この裁判は駐車場所有者と管理会社のコミュニケーションの難しさを示しているが、その一方で、個人と管理会社の背後に多くの当事者が存在することも事実だ。例えば、市の不動産管理部門も当事者だ。国の政策に沿った形で、駐車場所有者の合理的な要求を満たすように管理会社を指導しなければならない」と指摘する。

 管理会社が読み間違えたのは「公共の利益」を代表しているのは、不動産を管理している自分たちではなく、EV車を普及させる国策に従って、EV車を購入した個人という点だった。

 判決を伝えるネットニュースには「当然」「個人の権利が認められた」などと歓迎の書き込みも目立つ。日ごろ何かと管理会社の対応に不満を抱いている庶民が、判決を歓迎したのは当然だろう。(c)東方新報/AFPBB News