【10月30日 AFP】仮装した人々がパニックに陥って逃げ惑う。歩道で必死の応急処置が試みられる中、仮設の覆いの下に次々と遺体が並べられていく──。ハロウィーンを祝おうと集まった若者たちでにぎわっていた韓国ソウルの繁華街・梨泰院(Itaewon)で29日夜に起きた惨事の様子を、現場にいた人に聞いた。

 事故では路地に殺到した人々が折り重なるようにして倒れ、約150人が犠牲となった。原因はまだ解明されていない。

 梨泰院地区にはかつて米軍駐屯地が隣接。バーやクラブが軒を連ね、外国人も多く訪れるソウル屈指の人気スポットだ。2020年に大ヒットした韓国ドラマ「梨泰院クラス(Itaewon Class)」の舞台としても有名で、大通りの両側の地区は曲がりくねった急坂の路地が入り組んでいる。

 29日は新型コロナウイルスの流行に伴う行動規制の大半が解除されてから初めてのハロウィーンの週末とあって、夜になっても手の込んだ仮装姿の若者を中心に、数万人が繰り出していた。

 事故発生時、現場付近のバーにいたチョン・ガウルさん(30)は、「友人に外で何か恐ろしいことが起きているみたいだと言われて『何の話だ』ということになって店を出てみたら、通りのあちこちで心肺蘇生が行われていた」とAFPに語った。

 事故が起きる前から「大変なことになるのではないかと思っていた」という。「大勢が押し合いへし合いしていた。私自身、人混みに巻き込まれてなかなか抜け出せなかった」

■居合わせた人も蘇生手伝う

 現場はハミルトン・ホテル(Hamilton Hotel)近くの細い路地。

 駆け付けた救急隊は、犠牲者の多さを目の当たりにし、居合わせた人々に応急処置や心肺蘇生を手伝うよう要請した。大勢が搬送された近くの順天郷大学病院(Soon Chun Hyang University Hospital)前には、数百台の救急車が列をなした。

 立ち入り禁止のテープが張られ、赤色灯に照らされた路地には、現場検証を進める間も何軒かのバーの店内音楽が流れ続けていた。道端にぼうぜんと座り込んで携帯電話をチェックする人や、肩を抱き合って慰め合う人たちの横を、事の重大さに気付かず、ハロウィーンを楽しむ人々が通り過ぎていく。

「いつも混んでいるが、こんなことは初めてだ」。梨泰院でバーテンダーをしているチュ・ヨン・ポサマイさん(24)は、「韓国でハロウィーンパーティーは何度も経験しているけれど、梨泰院でこんなことが起きるとは思いもしなかった」と話した。(c)AFP/Anthony Wallace and Yelim Lee