■「100万回聞いたストーリー」

 他の映画界同様、ボリウッドも動画配信サービスにより打撃を受けている。コロナ禍以前から動画配信サービスはあったが、感染対策の行動制限で何百万人もが屋内にとどまることを余儀なくされた結果、利用が急拡大した。

 政府の推計によると、人口の約半分がインターネットにアクセス可能で、ネットフリックス(Netflix)やアマゾン(Amazon)のプライム・ビデオ(Prime Video)、ディズニープラスホットスター(Disney+ Hotstar)といった海外大手の動画配信サービスが普及している。登録者数は計9600万人に上る。

 新型コロナの流行中、動画配信サービスで公開された映画もあれば、劇場公開からわずか数週間で配信されたものもある。

 動画配信サービスの月額料金は100~200ルピー(約180~360円)で、単館系映画館のチケット1枚分より安いか同額で済む。シネマコンプレックスのチケットはさらに高額のため、料金に敏感な観客は映画館を避けるようになっている、と専門家は指摘する。

 今年3月には、インドのシネコン運営大手アイノックス(INOX)と同業PVRが「規模拡大」に向け合併に追い込まれるなど、業界にとって厳しい状況が続いている。

 一方、動画配信では、南部のテルグ語、タミル語、マラヤーラム語、カンナダ語といった、すでに熱烈なファンを擁するインド各言語の映画や、世界のコンテンツを見ることができる。

 映画評論家ラジャ・セン(Raja Sen)氏は「映画館は移動できない。そして突然、誰もがマラヤーラム語や西部マハラシュトラ(Maharashtra)の映画を見ることができるようになり、(ボリウッド)より面白いということに気付いた」と指摘。「スターが出演する100万回も耳にしたことがあるようなストーリーのヒンディー語映画の大作を見ても、それほど感動しなくなった」

 ニッチ市場やエリート向けの映画を制作するボリウッドは、全人口の7割が都市部以外に住むインドでは共感が得られないとの批判もある。

 アーミル・カーンさんは映画『ラール・シン・チャッダ』についてのインタビューで、ヒンディー語映画の制作者が自分たちにとって親しみのあるテーマを選んだとしても、おそらく多くの観客にとってはあまり意味がないのかもしれない、と語った。

 タウラニ氏は、スターを主人公にしてもヒットはもはや保証されないとし、最近のボリウッドの苦戦ぶりは「憂慮すべきものだ」と話す。

「観客はもちろんスターを求めているが、観客が望んでいるのは引きずり込まれるようなストーリーにスターが登場することだ」

 ムンバイの映画館前でAFPの取材に応じた映画ファンは、問題はボリウッド作品はそこまで面白くないことに尽きると語った。

 学生のプリーティ・サワントさん(22)は「ストーリーも内容も良ければ観客は見たいと思う」とコメント。「そうではないから誰も足を運ばない」 (c)AFP/Glenda KWEK