【10月20日 AFP】リズ・トラス(Liz Truss)英首相は、国民や議員、さらには市場からも総スカンを食い、英国史上最短の在任期間で首相の座を降りることとなった。

 トラス氏は、ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)前首相の後任を選ぶ保守党党首選挙で、国債増発を財源とする減税により急速な経済成長を促すという計画を打ち出すことで、党内の支持を取り付けた。

 一方、対立候補だったリシ・スナク(Rishi Sunak)元財務相は、インフレが進む中でそうした政策をとれば金利が上昇し、多くの国民に影響すると警告。トラス氏は、スナク氏の主張は「不安をあおる」だけのものだと一蹴した。

 だが、スナク氏の予想は的中。トラス氏は、自身の右腕だったクワジ・クワーテング(Kwasi Kwarteng)財務相を更迭するなどして首相の座にしがみついたものの、20日に辞意表明に追い込まれた。

 次期首相は28日に決まる予定で、トラス氏の在任期間は、19世紀に就任後わずか118日で死去したジョージ・カニング(George Canning)首相を大幅に下回り、史上最短を更新することになる。

 トラス氏の経歴は、今回のような突然の方向転換と無縁ではなかった。リベラル派の両親のもとに生まれ、当初は自由民主党支持者として政治の道を歩み始めた。若いころはさらに、君主制や英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット、Brexit)にも反対していた。

 先月8日、わずか2日前に自身を新首相に任命したばかりだったエリザベス女王(Queen Elizabeth II)が死去すると、トラス氏は、王室廃止を訴えたかつての主張とは相反する立場に置かれた。新首相として女王を追悼し、チャールズ新国王(King Charles III)に敬礼をし、その国内訪問に同行した。

 だが、ロンドンの首相官邸前でトラス氏が行った弔辞は堅苦しく、雄弁なジョンソン氏とは対照的に精彩を欠くスピーチ力を露呈した。それでも、スキャンダル続きだったジョンソン政権の後、トラス氏の単刀直入なスタイルと保守路線は、保守党内で支持を得ていた。

 英国で3人目の女性首相になったトラス氏は必然的に、同国初の女性首相であるマーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)氏と比較された。外相を務めていた1年の間、トラス氏はかつてのサッチャー氏と同じように戦車の上に乗る姿や、モスクワでロシア帽をかぶる姿が写真に収められていた。

 ジョンソン氏の上級顧問を務めたドミニク・カミングス(Dominic Cummings)氏から「人間手りゅう弾」と呼ばれた他、議員からは過度な自己宣伝を非難されることもあった。(c)AFP/Joe JACKSON and Jitendra JOSHI