【10月13日 AFP】シャーレ(ペトリ皿)で培養した脳細胞に、卓球ビデオゲーム「ポン(Pong)」のプレー方法を学習させることに成功したとする研究論文が12日、米脳神経科学誌ニューロン(Neuron)に発表された。研究を行ったオーストラリアの脳神経科学者チームは、脳細胞が「知覚力を有した行動」を示したと説明している。

 研究を率いたブレット・ケーガン(Brett Kagan)氏はAFPに対し、今回の研究結果は、神経細胞を利用した生物学的情報プロセッサー(処理装置)の開発につながるものだと説明。「機械学習アルゴリズムが何かを学習するためには何千ものデータサンプルが必要となる」のに対し「犬は訓練すれば2~3回で芸を覚える」とし、生物学的プロセッサーは電子コンピューターを補完するものとなると語った。

 研究チームは、マウスの胚から脳細胞を採取し、ヒトの成体幹細胞からニューロン(神経細胞)を作成。細胞の活動を読み取り刺激を与えることができる微小電極配列の上で培養した。「ディッシュ(皿)ブレーン(DishBrain)」と名付けられた培養組織は約80万個のニューロンからなり、大きさはマルハナバチの脳と同程度だった。

「ポン」は対戦式のゲームだが、実験では対戦相手のいない形に簡略化された。電極配列の左右からボールの位置を示す信号が送られ、それに応じてディッシュブレーンがパドルを動かす信号を返す仕組みだ。

 大きな課題となったのが、神経細胞にゲームの遊び方を「教える」方法だ。これには、論文の共同執筆者カール・フリストン(Karl Friston)氏が10年以上前に提唱した「自由エネルギー原理」を応用した。同原理では、細胞には環境中の予測不可能性を最小限に抑えようとする性質があるとされる。

 ディッシュブレーンがパドルをボールに当てることに成功すると「予測可能」な電気信号が、失敗した場合にはランダムで「予測不可能」な信号が送られた。これによりディッシュブレーンは「自分の世界を制御可能で予測可能なものにするためには(パドルを)ボールにうまく当てられるようになるしかない」状態に置かれたと、ケーガン氏は説明している。

 研究チームは、ディッシュブレーンが知覚情報に対して動的に反応したことから、「知覚力」を有していると結論。ただ、自らの存在を自覚していることを示す「意識」は有していないとした。

 ケーガン氏によると、ディッシュブレーンはさらに、米グーグル(Google)のブラウザー「クローム(Chrome)」でインターネット未接続時に表示される「恐竜ゲーム」にも挑戦。その初期結果は良好だったという。次の実験として、薬物やアルコールがディッシュブレーンの能力に与える影響を調べる予定だ。(c)AFP/Issam AHMED