【10月16日 AFP】米カリフォルニア州シリコンバレー(Silicon Valley)在住のチェン・ジャジュンさん(29)は中国の地方都市で暮らしていた10代の頃、インターネットの知識を駆使し、国内で発禁処分を受けたドキュメンタリー作品を見た。この作品は、民主化運動が武力で弾圧された天安門(Tiananmen)事件がテーマだった。

 それから10年後。チェンさんは、中国のサイバースペースを取り締まる政府の検閲マシンの一部となり、中国共産党が国民から隠したがる事柄の拡散阻止を担うようになっていた。

「働き始めた当初は仕事は仕事と捉えて、深く考えてはいませんでした」と話す。

「でも心の奥底では、自分の倫理観に反しているのは分かっていました。それに、こういう仕事をずっと続けていると(中略)葛藤がどんどん強くなってくるんです」

 チェンさんのように、中国のプロパガンダ機関で働いていた経験を公表する人は極めて少ない。

■天安門事件のドキュメンタリーに衝撃

 チェンさんは1993年、広東(Guangdong)省南部で生まれた。パソコンに初めて触ったのは小学生の頃、父親が自宅に一台のパソコンを持ち帰った時だった。

 インターネットを通じて「全く新しい世界が広がっている気がしました」と当時を振り返る。

 中国政府の初期のネット検閲は徹底しておらず、仮想プライベートネットワーク(VPN)を使えば、表立って話題に上ることのないテーマや情報にもアクセスできた。

 そうした禁断の果実の中に、1989年6月に天安門広場で起きた学生たちの抗議運動を題材にした約3時間のドキュメンタリー映画『天安門(The Gate of Heavenly Peace)』があった。

 チェンさんが目にしたのは衝撃的な弾圧だった。

「極めて大きな意味を持つ歴史的な出来事なのに、私たちは誰からも教わっていませんでした。中国のインターネットでは検索することもできません。(天安門事件に関する)コンテンツはすべて削除されているのです」

「とても大きなうそがあるように思いました。さまざまな歴史が隠蔽(いんぺい)されていると」