【8月13日 AFP】(更新)著作をめぐりイラン最高指導者から死刑宣告を受けていた英作家のサルマン・ラシュディ(Salman Rushdie)氏(75)が12日、米ニューヨーク州西部でのイベントに出席中、ステージに乱入した男に襲われ、首を刺された。地元警察が明らかにした。

 事件は、同州シャトークア(Chautauqua)にある教育施設で開かれていた文学イベントで発生。SNSに投稿された動画では、ラシュディ氏の元に人々が駆け寄り、応急処置を施す様子が捉えられている。ある目撃者はSNSへの投稿で、人々は会場から避難させられたと説明した。

 警察によると、ラシュディ氏はヘリコプターで病院に搬送されたが、容体は不明。司会者も襲われ、頭部にけがをした。容疑者の男は、イベントの警備に当たっていた警察官により身柄を拘束された。男の身元や動機は不明。

 インド生まれのラシュディ氏は、宗教活動を実践しないイスラム教徒の家庭で育ち、現在は無神論者を自称している。1988年の著作「悪魔の詩(Satanic Verses)」が一部のイスラム教徒から預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)に対する冒涜(ぼうとく)とみなされ、イランの当時の最高指導者ルホラ・ホメイニ(Ayatollah Khomeini)師から死刑を宣告するファトワ(宗教令)を受けた。

「悪魔の詩」をめぐっては91年、日本語版の翻訳者だった筑波大学の五十嵐一(Hitoshi Igarashi)助教授が何者かに刺殺される事件が発生。その他の言語の翻訳者や出版関係者の殺害や殺害未遂も相次いだ。ラシュディ氏は当時居住していた英国で警察の保護を受けるようになり、10年近くにわたり潜伏生活を送った。

 同氏の殺害に対しては現在も懸賞金がかけられているが、98年にイランが殺害を支持しないと表明したことを受け、公の場に姿を見せるようになった。現在はニューヨークに住んでおり、2015年にパリでムハンマド風刺画を掲載した週刊紙シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)の事務所が銃撃を受けた事件では同紙を強く支持するなど、言論の自由を擁護してきた。(c)AFP