【7月30日 AFP】ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア(Crimea)半島。そのビーチに白いビキニ姿でくつろぐロシア人観光客の女性がいた。

「もちろん、完全にリラックスしているとは言えません」。アレクサンドラ・ルミャンツェワさんはAFPにそう語ると、真っ青な空を飛ぶロシア軍の戦闘機を見上げた。

 クリミア半島最大都市のセバストポリ(Sevastopol)には、ロシア軍が黒海(Black Sea)艦隊の拠点を置いている。ウクライナ軍との前線は、北へわずか300キロしか離れていない。

 ロシアのウクライナ侵攻後、西側諸国による制裁や航空路の遮断、ロシア経済の悪化などにより、ロシア人観光客は欧州やその他の観光地を訪れることができなくなっている。温暖なロシア国内の黒海沿岸や併合したクリミア半島ですら、ウクライナ南部の戦闘で空域が閉鎖され、行きづらくなっている。

 それでもルミャンツェワさんは、夫と息子2人と浜辺の休暇を楽しむために、2500キロ離れたロシア第2の都市サンクトペテルブルク(St. Petersburg)から車を走らせた。

 途中、ロシア本土とクリミア半島を結ぶために建設された陸橋を利用した。橋が爆破されるかもしれないといううわさがあり、「多くの人が心配していた」とルミャンツェワさん。移動中には前線へ向かっていると思われる軍の車列を目にしたと話す。

■怖がってここへは来ない

 7月のある暑い日、AFPはセバストポリの浜辺を訪れた。少年たちが岩から海へ飛び込み、上半身裸の男性たちがビール片手にロシアの夏の風物詩シャシリク(串焼き肉)を作っていた。海水浴客が涼む沖には、ロシアの軍艦が見えた。

 街の中心部では愛国的なロシア音楽が鳴り響き、ウクライナ侵攻を支持する「Z」マークが入った土産物を売っていた。

 この夏、クリミアを訪れている観光客は例年より少ない。

 郊外のビーチで小さなケバブ店を営む元戦闘機パイロットのアリベルト・アガグリャンさん(69)は、この夏は子どもをサマーキャンプに行かせる金銭的余裕がなかったと言った。「みんな怖がってここへは来ないんです」 (c)AFP/Andrey BORODULIN