【7月25日 AFP】カスピ海(Caspian Sea)沿岸の産油国アゼルバイジャンのゼンギラン(Zangilan)県アガリ(Agally)村で、係争地ナゴルノカラバフ(Nagorno-Karabakh)をめぐる軍事衝突を受けて1993年に故郷から逃げていた住民の帰還が始まった。初日の19日は58人が村に戻った。5日間で41世帯が帰還するという。アガリ村への転入は今後数か月で完了する見通し。

 1990年代前半、ナゴルノカラバフのアルメニア系住民がアルメニアへの編入を求めたことをきっかけに戦闘に発展。この戦闘で約3万人が死亡したとみられる。1993年にはイラン国境に近いゼンギラン県から3万人以上のアゼルバイジャン系住民が避難した。

 2020年秋、ナゴルノカラバフをめぐりアゼルバイジャンとアルメニアの間で再び軍事衝突が発生し、6週間の戦闘で6500人以上が死亡した。ロシアの仲介で停戦合意が結ばれ、アルメニアが占拠していた広大な土地をアゼルバイジャンに引き渡すことになったほか、ロシアが約2000人の停戦監視部隊を駐留させた。

 アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ(Ilham Aliyev)大統領は、以前から領土回復を公言していた。初の住民帰還はアゼルバイジャンにとって象徴的な出来事となった。

 アリエフ大統領のゼンギラン県特別代表によると、政府は帰還住民に仕事を提供する方針。アガリ村に新たに建設された「スマートビレッジ」には、ソーラーパネルを備えた数十軒の住宅のほか、学校と幼稚園などが建設された。

■大家族になって故郷の村に

 真新しい噴水が太陽の光を浴びているアガリ村中心部の広場にバスから降り立った住民たちは感情をあらわにした。

 1993年に幼い子どもたちを連れ、命からがら徒歩で川を渡ってイランに入ったという72歳の女性は、「あの時逃げたすべての人たちには、今日のうちの家族と同じように自分の家に戻ってきてほしい」と語った。「私は4人の子どもを連れて村を出て、孫9人の大家族になって帰ってきました」

 アゼルバイジャン政府は、ナゴルノカラバフとその周辺を巨額のオイルマネーで再建するとしている。昨年の予算には、この地域の道路や橋、空港の建設といったインフラ整備に13億ドル(約1800億円)を計上した。しかし、激しく荒廃している上に地雷もあることから、大規模な住民帰還の見通しは立っていない。

 アルメニア側は、かつての支配地域からの部隊撤収を今年9月までに完了すると表明している。

 アゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのニコル・パシニャン(Nikol Pashinyan)首相は、今年4月と5月にベルギーのブリュッセルで会談。欧州理事会(European Council)のシャルル・ミシェル(Charles Michel)常任議長は、次の会談は7月か8月に行われると述べた。

 ロシアは、今年2月24日のウクライナへの侵攻でナゴルノカラバフ紛争の主要仲介者としての地位を失った。現在は欧州連合(EU)が、アゼルバイジャンとアルメニアの関係正常化を主導している。(c)AFP/Emil GULIYEV