■侮辱と取られる場合も

 歴史的な背景もある。

 20世紀初めから半ばまで、スウェーデンは今よりもずっと貧しく、一方で各家庭の子どもの数は多かった。生活が苦しい親はよく、遊び相手の家で子どもに食べさせてもらっていた。

 そのため、今の時代に「他人の子どもに食事を与えようとすると、その子の家庭が生活苦にあると思っていることになる」とテルストロム氏は指摘する。相手の親に侮辱と取られるおそれもある。

 また、スウェーデン国教会が属するプロテスタントのルター派では、食べ物に困っている家庭は、神と正しい関係にないと捉える風潮がある。

 テルストロム氏によると、スウェーデン人の「貸し借り」に対する考えも重要なカギだ。

「子どもがよその家庭でごちそうになると、借りができることになります。それは大人同士の関係としては好ましくないため、互いに借りをつくらないようにしているのです」とテルストロム氏は語る。

 スウェーデン人同士で飲みに行く時などもこの傾向は見られ、互いにおごり合うよりも自分の飲み物代は自分で払おうとする人が多いという。

 食文化の研究者でもあるテルストロム氏は、今回の論争は、スウェーデンや北欧に特有の文化を世界中に知ってもらうチャンスだと歓迎している。

 移民として北欧にやって来た人々から「友人の部屋に置いてきぼりにされたのは、人種的な理由で、夕食の席に招くのにふさわしくないと判断されたせいだと思った」と明かされたこともあるという。

「これは非常に残念な話です。人種とは全く関係がなく、貸し借りをつくりたくないからなのです」とテルストロム氏は話した。(c)AFP/Johannes LEDEL