■塹壕(ざんごう)戦

 ロシア軍の砲兵は、ドンバス地方でウクライナの陣地を攻撃しているが、前出のブレグ氏は、「ウクライナ側は塹壕を掘って地中に隠れている」とし、簡単には掃討できないだろうと分析する。

 仏軍事史家のミシェル・ゴヤ(Michel Goya)氏はブログで、「ドンバスの戦いはまだまだ続くことになる」とした上で、東部の戦いは重大な決戦になると指摘する。

 元仏軍特殊作戦司令官のクリストフ・ゴマール(Christophe Gomart)氏は、民放ラジオ局のラジオ・テレビ・ルクセンブルク(RTL)に対し、ロシアの目標は「ドンバス地方の行政的な境界に到達する」ことだとの見方を示した。

 ただ、両軍は3か月も戦闘を続けて疲弊しており、作戦が一時的に小休止される可能性があると述べた上で、「消耗戦の様相を呈している」と指摘する。西側の情報筋は、これまでにロシア兵1万5000人が死亡した一方、ウクライナ側の犠牲者数はこれよりも少ないとみている。

 軍事情報サイト「Oryx」によると、ロシア軍は推定で戦車739両、装甲車両428台、歩兵戦闘車813両、戦闘機約30機、ヘリコプター43機、無人機75機、ロシア黒海(Black Sea)艦隊旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ(Moskva)」を含む海軍艦船9隻を失った。これに対し、ウクライナ側は戦車185両、装甲車両93台、航空機22機、ヘリ11機、船舶18隻の被害が出たと推定されている。

 米シンクタンク、海軍分析センター(CNA)のマイケル・コフマン(Michael Kofman)氏は、「ウクライナ側は短期的には領土を失う可能性があるが、ロシア軍は長期的に見て、新たな支配地域の維持など作戦を持続させることに関して大きな問題に直面するだろう」との見通しを示した。

 ウクライナ軍側はすでに南部のミコライウ(Mikolayiv)やヘルソン(Kherson)などで反撃に転じている。これらの都市についてブレグ氏は、ロシア軍が支配を固めているというよりも「争奪戦になっている」との認識を示した。

 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンシアン氏(Mark Cancian)もゴマール氏同様、「長期の消耗戦」を予想する。「双方とも妥協や取引に前向きではなく、非公式の戦闘停止、いわば活発な武力衝突が止まった『凍結された紛争』になるかもしれない」としている。(c)AFP/Daphne BENOIT