■破壊されても「美しい」街

 教師のコンスタンチン・マブロジ(Konstantin Mavrodi)さん(28)と母親のタイシアさんはリュックサックひとつで、東部ボルノバハ(Volnovakha)に向かうバスに乗るために家を出た。ロシア軍の支配下にあるボルノバハには祖母が住んでいる。

「ここにたどり着くまでに、銃弾をかいくぐって走らなければならなかった」。銃撃を受けたのは、アゾフスターリ(Azovstal)工業地帯周辺の道を歩いている時だったという。同工業地帯では、ウクライナ軍がソビエト時代に掘られたトンネルにこもって抵抗を続けている。

 マブロジさんによると、マリウポリ市民は先月3日以降、電気もインターネットもない生活を送っており、家族に無事を知らせることもできない状態にある。

 マブロジさんの将来は不確かだ。祖国のウクライナにも、親戚のいるロシアにも背を向けることができないという。「私たちはいま、ただ生きたいだけ。どの国に住むかは、後で決める」

 会計士のスベトラナ・ヤサコワ(Svetlana Yasakova)さん(43)は、人道支援物資を運ぶトラックの前に並びながら、マリウポリを離れるつもりはないと断言した。「私には家がない。自宅アパートは完全に破壊された。3か月前に引っ越したばかりで、リフォームしたての新しいアパートだった」

 ただ、こう語りながらもヤサコワさんは笑顔を見せる。「私は今、この瞬間を生きている。きょうはここにいて、あすはあす。こんな状態になってしまっても、私はこの街が好き。これでも美しい」 (c)AFP/Andrey BORODULIN