【4月16日 AFP】ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリ(Mariupol)の元建設作業員ガリーナ・ワシリエワ(Galina Vasilyeva)さん(78)は、かつて自分が建設に携わったものの今は荒廃してしまった街並みを見渡すと、焼失した9階建てビルを指さして「あそこには焼け焦げた遺体がある」と語った。

「この辺りの建物はすべて、私たちの世代が建てたもの。今やすべて爆撃された」。ワシリエワさんは親ロシア派武装勢力が配給する人道支援物資の列に加わりながらこう語った。

 約50万人が暮らしていた要衝都市マリウポリは、ロシアがウクライナで開始した「特別軍事作戦」の初期に包囲された。1か月以上がたった今、ウクライナ軍は市内の大規模な工業団地にこもって抵抗を続けているが、苦戦を強いられている。

 正確な数は不明だが、同市では数千人の市民が死亡したとみられている。残る人々も、食料や水、電気がほとんどない状況で暮らす。

■「あるのは恐怖」

 ロシア軍主催のプレスツアーで、親ロシア派武装勢力の戦闘員は報道陣に対し、市内には多数の遺体があるものの、戦闘が続いているため全員を収容することはできないと語った。

 一行は、先月16日の攻撃で一部が破壊され焼失した劇場も訪れた。劇場の地下には当時、数百人が避難していたが、今もがれきに埋もれたままとなっている人が何人いるかは分からない。親ロ派戦闘員は「がれきの撤去が始まれば、死者の数ははっきりするだろう」と語った。

 ウクライナ側は、ロシア軍が意図的に劇場を攻撃したと非難。一方のロシア側は、ウクライナの民族主義部隊がロシアに罪を着せるため劇場を爆破したと主張している。

 戦火が弱まった今、マリウポリ市民は食料や水を求め、また市外への脱出を試みるために街中へ出るようになった。

 人道支援物資の列にいた公務員のタチアナさん(59)はAFPに「私たちは恐怖を体験した。次に何が起きるかは分からない。まるで火山の上で暮らしているようだ」と語った。「ここにあるのは恐怖。他に何と言えばいいのか? 多くの人が苦しんでいる」

 タチアナさんが住む集合住宅では死者が出ており、敷地内の中庭に埋葬されているという。AFPの記者は市内の大通りで、こうした間に合わせの墓を多数目撃した。