【3月29日 AFP】ロシアがウクライナへ軍事侵攻したことを受け、各競技団体はロシアにかつてないほど厳しい制裁を科し、スポーツと政治を混同してはならないという従来の原則を西側諸国主導で覆した。

 しかし、イスラエルとの紛争を理由に同国との対戦を拒否し、自国の選手が処分されてきたアラブ諸国では、欧州の戦争が例外扱いされたことをダブルスタンダード(二重基準)と捉える見方が多い。

 エジプトのスカッシュ王者アリ・ファラグ(Ali Farag)は「(ウクライナの)現状には誰も納得していない」としつつ、「僕らはスポーツの場で政治の話をすることを絶対に許されなかったのに、突然それが認められるようになった」と話した。

「それが許されるなら、世界の至るところにある抑圧にも目を向けてほしい」と訴え、「パレスチナ人は過去74年にわたって虐げられたままだが、おそらく西側メディアの論調にそぐわないから、僕らはパレスチナ問題について話せなかった」と指摘した。

 シンガポール国立大学(NUS)中東研究所のジェームズ・ドーシー(James Dorsey)上級研究員も、「国際サッカー連盟(FIFA)を含めた国際スポーツ団体は、会場での政治的、宗教的メッセージを禁止している」とした上で、「彼らはウクライナのために、その方針を実質的に撤回した。であるならパレスチナはもちろん、イエメンやシリア、リビアはどうなのか」と疑問を呈する。

■「僕らの命は安いのか」

 パレスチナのサッカー選手で、現在はインドネシアのクラブでプレーするモハメド・ラシード(Mohamed Rashid)は、試合で戦争反対のメッセージを掲げたチームに同調することを拒んだ。

 その理由について、ラシードはエジプトのスポーツサイトが公開した動画の中で、「欧米で戦争が起こったら誰もが同情するのに、パレスチナで人が死んでも、僕らは連帯を示すことを許されず、政治とスポーツの混同だと非難される」と話し、「僕らの命は、欧米の人の命より安いのかと感じる」と嘆いた。

 ドーシー氏は、スポーツと政治を切り離すのはそもそも不可能だと考えており、「スポーツと政治は別という考え方は幻想だ。二つは分かちがたく結びついている」と話すと、「唯一の解決策は関係を認めることだ」と主張した。

 しかし、アジア・サッカー連盟(AFC)の会長を務めるバーレーンの王族サルマン・アル・ハリファ(Salman bin Ebrahim Al Khalifa)氏のような、政界の要人がスポーツ団体を長く支配してきた地域では、政治はもろ刃の剣になりかねない。

 ドーシー氏は「FIFAは過去数十年、アラブ諸国による専横の屋台骨だった。ダブルスタンダードを訴えたいなら注意が必要だ。墓穴を掘ることになりかねないのだから」と話している。(c)AFP/Ali Choukeir