【3月25日 AFP】ウクライナの首都キエフ西郊ノボビルチ(Novobilychi)の精神障害者施設で、看護師長のオクサナ・パダルカ(Oksana Padalka)さんは、砲声で壁が揺れるたび物陰に隠れて涙をこぼす。それから無理に笑顔を作り、ウクライナは問題ないと患者を安心させる仕事に戻る。

「最初は、あまりの迫力にみんな座り込んでしまった。今はもう慣れた。ただ、ミサイルが飛んでこないことを祈るのみだ」とパダルカさん。

 施設では18歳から80歳以上まで、男性患者355人が暮らす。わずか5キロの距離にあるイルピン(Irpin)とブチャ(Bucha)は連日、ロシア軍の激しい攻撃を受けている。

 120人いた施設スタッフは、2月24日のロシア軍侵攻後、半減した。看護師の1人はブチャ在住で、もう2週間も連絡が取れない。

 患者や同僚に見られないよう自室にこもって、ひたすら泣くしかない夜もあると、パダルカさんは語る。患者たちの前で感情をあらわにはできない。「薬を飲めば、翌朝には元気になれる」

 患者には常に笑顔で接する。「私たちが落ち着いているのを見て、患者さんは何も問題ない、大丈夫だと思える」

 おびえる患者や、戦争はいつ終わるのかと聞いてくる患者もいる。「彼らを抱き締め、私たちは家族だと言う。すべてはうまくいっている、人生は素晴らしいんだと」

 図書室では患者が黙々とチェスをしたり、塗り絵をしたり、粘土をこねたりしている。スタッフはできる限り日課をこなし、患者も可能な範囲で参加する。それでも、幾つか以前と変わったこともある。

 図書室は、ウクライナ国旗の青色と黄色で彩られた。爆撃が激しくなったら、旧ソ連時代の地下壕(ごう)にすぐ逃げられるような服装で患者は寝ている。敷地内の散歩は制限され、インターネット利用も患者を不安にさせないため中止している。

 テレビのチャンネルは、ウクライナの勝利を約束する公共放送に合わせている。「ウクライナは勝つ、当然だ」と、塗り絵にいそしむ40代の患者が言った。

 別の患者が「ウクライナのために死ぬ覚悟はできている」と口にすると、医師が「いいや、ウクライナのために生きなければ」と穏やかに応じた。

 戦争に関する冗談も時々飛び交う。昼食時、2個のゆで卵を手にした患者が「少なくとも、これはまだプーチンのものじゃない!」と叫んだ。

 施設内には、重症患者用の隔離室もある。医師の一人は「もしプーチンがここに現れたら、その場で監禁してしまおう」と苦笑した。(c)AFP/Emmanuel DUPARCQ