【3月27日 AFP】メキシコ中部アグアスカリエンテス(Aguascalientes)に住むマリア・マルティネス(Maria Martinez)記者(55)は自宅を出るたびに、これが最後かもしれないと恐れている。同国では今年に入って8人の記者が殺害され、2月中旬時点で、昨年殺害されたメディア関係者の数を上回った。

「毎日が死と隣り合わせです。おびえながら暮らすのはつらいです」。マルティネス記者は、鍵と監視カメラで守られた自宅で語った。

 検察当局によると、今月15日にも、暴力が多発している中西部ミチョアカン(Michoacan)州で報道機関のディレクターが殺害された。

 このディレクターは数週間前に同僚の一人が殺害された際、汚職を報じたために取材チームが脅迫を受けていたと明かし、「私たちは武装していない。武器も所持していない。私たちの唯一の武器はペンと鉛筆だ」と訴えていた。

 ニュースサイト「ペンドゥロ・インフォルマティーボ(Pendulo Informativo)」を運営しているマルティネス記者も、当局と麻薬密売組織との癒着を調査したことで殺害予告を受けたと話す。

 同ニュースサイトの報道を受けて警察官数人が収監された一方で、マルティネス記者は政府の保護対象ジャーナリストとなった。当局には、緊急通報ボタンを兼ねた追跡装置で2時間ごとの安否確認を要請しているが、武装したボディーガードの方がより信頼できる。

「私の命があるのは彼らのおかげです」とマルティネス記者。出歩く際にはすぐ後ろで、私服の元特殊部隊員2人が近づく車や人を警戒しながら護衛する。

「家族から報道の仕事をやめてと懇願される」が、「私には信念と(中略)社会的な責任があります」と話した。

 麻薬密売人による報復行為の取材や政治家・治安部隊員の癒着疑惑を報道した記者は、殺し屋を差し向けられることになる。

 米国境に接する北西部の町ティフアナ(Tijuana)では今年1月、写真記者が殺害され、その数日後、政府の保護対象となっていた記者が射殺された。

 2人の同僚であるヘスース・アギラル(Jesus Aguilar)記者(32)は、「後ろから車がゆっくり近づいてくると、撃たれるんじゃないかと思ってしまう。駐車中に車が近づいてきたら、シートを倒して身を守ります」と語った。

 メキシコは報道関係者にとって世界で最も危険な国の一つだ。

 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(RSF)」によると、メキシコで殺害された記者は2000年以降、約150人に上っている。だが、実行犯が有罪になったケースはごくわずかしかない。(c)AFP/Jennifer Gonzalez Covarrubias