■原油権益見返りに保護

 米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が8日に中東や米当局者の話として伝えたところでは、サウジで実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子(Crown Prince Mohammed bin Salman)と、UAEの国政を執り仕切るアブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザイド皇太子(Crown Prince Mohammed bin Zayed)はここ数週間、バイデン大統領と対話するよう求める米政府の要請を拒んでいる。

 米国家安全保障会議(NSC)のエミリー・ホーン(Emily Horne)報道官は報道について「現実を反映していない」と述べ、バイデン大統領は先月、サウジのサルマン国王(King Salman)と話したと指摘した。その後は対話の要請は行われていないという。

 バイデン大統領は昨年1月20日に就任して以降、サウジのムハンマド皇太子と会話を交わしていない。バイデン氏は、サウジ王室が関与したと米中央情報局(CIA)が主張するカショギ氏殺害事件をめぐり、サウジを「暴君国家」として扱うとの立場を示した。

 ムハンマド皇太子は、バイデン大統領に自身が誤解されているのかとの米誌アトランティック(Atlantic)の質問に対し、肩をすくめ、「ただ、私は気にしていないというだけだ」と答えた。

 1945年にサウジの初代アブドルアジズ国王(King Abdulaziz)がルーズベルト(Franklin D. Roosevelt)米大統領と米軍艦上で会談して以来、原油権益と引き換えに保護を提供するという前提で両国の同盟関係は維持されてきた。

 アラブ世界では、米軍や外国軍を駐留させている湾岸諸国は長らく、米国の「操り人形」と見なされてきた。これが変化したのが、2010年末に始まった中東での民主化要求運動「アラブの春」だった。歴史的にアラブで盟主的な役割を果たしてきたエジプトやシリアなどの影響力が低下し、財政的にも豊かで安定した湾岸諸国がより大きな役割を果たすようになった。

 こうした変化を受け、サウジ、UAE両国は、国益に沿って独自の外交政策を志向するようになった。

 両国は、イエメンでイランが支援するイスラム教シーア派武装組織フーシ派(Huthi)と戦っており、ロシアや中国との関係を強化する一方で、UAEはイランの宿敵であるイスラエルとの国交を樹立した。

 UAEの政治学教授アブドゥルハレク・アブドゥラー(Abdulkhaleq Abdulla)氏は今月、米CNNに対し、「UAEはもはや米国の操り人形と見なすべきではない」と述べた。その上で、「米国と強力な関係があるという理由だけで、米政府から命令を受けるわけではない。われわれは、自らの戦略や優先事項と一致した形で行動しなければならない」と指摘した。

 イランとの対話再開やフーシ派のテロ組織指定の拒否を含め、湾岸諸国には多くの不満があるが、問題の核心は安全保障だ。2019年に国営石油会社サウジ・アラムコ(Saudi Aramco)の石油施設が攻撃を受けた際、米国は強い対応に出なかった。また、中東への軍事的な関与を減らすことも表明している。

 ワシントンにあるシンクタンク、アラブ湾岸諸国インスティチュート(Arab Gulf States Institute)のフセイン・イビシュ(Hussein Ibish)氏は、「サウジやUAEのような湾岸諸国は、安全保障の究極的な庇護(ひご)者として進んで米国に依存する考えをもはや抱いていない」との見方を示した。その上で、「ロシアや中国を主体とした大国を含めた多極化する世界の台頭は不可避だ」と予想した。(c)AFP/Mohamad Ali Harissi