■高度な皮肉

「ユーモアがあり風刺の利いた回答にしようと工夫している」とペク氏。そのかいあって、「AI尹錫悦」の発言は韓国メディアでも話題を集めている。「政治的に正しい発言しかしていなかったら、これほどの反応は得られなかっただろう」「急速に変化する社会への既成政治勢力の対応は遅すぎる」と話した。

「AI尹錫悦」は、尹氏の過去のスキャンダルも冗談の種にして有権者の関心をはぐらかそうとしている。例えば、検察時代に建設会社から不適切な果物の贈り物を受け取ったとされる指摘については、「柿やメロンに恩義はありません。国民の恩義のみを受けています」と答えた。選対本部はその後、尹氏が贈り物を受け取ったことがあると認めた。

 最大の対立候補である李氏の所属する与党「共に民主党(DPK)」の選対スタッフは、AI候補者の起用について「政治の礼儀作法を軽視している」と非難する。しかし、この作戦の効果は出ている。世論調査によると、20代有権者の支持率では、尹氏が李氏を引き離している。

 韓国の選挙管理委員会は、ディープフェイク技術であることを明確に示し、虚偽情報を拡散しないことを条件に、AI候補者を用いた選挙運動を許可した。

 ディープフェイク技術は有害だと指摘されることが多いが、「AI尹錫悦」チームのペク氏は、AIこそが選挙運動の未来だと考えている。

「ディープフェイク技術を使えば、膨大な量のコンテンツを簡単に制作できる。このため、ますます活用されるようになるだろう」と同氏はAFPに語った。(c)AFP/By Kang Jin-kyu