【2月17日 AFP】韓国ソウルにある保守系野党「国民の力(People Power Party)」の選挙対策本部では、流行に敏感な20~30代のスタッフが人工知能(AI)を用いた合成映像技術「ディープフェイク」を駆使して、一見不可能なことに挑戦している──60代の大統領候補、尹錫悦(ユン・ソンニョル、Yoon Suk-yeol)前検事総長を「クール」に見せようというのだ。

 チームはこのために何時間もかけて録画した尹氏の映像を基に、同氏のデジタルアバターを作成し、来月9日投開票の大統領選に向けた選挙戦に「AI尹錫悦」を投入した。

 AI技術が選挙に利用された例は過去にもある。ドナルド・トランプ(Donald Trump)前米大統領を侮辱するバラク・オバマ(Barack Obama)元米大統領のディープフェイク動画などが知られている。だが、「AI尹錫悦」は世界初の党公認ディープフェイク候補だと開発チームは言う。

 黒髪をきれいに整え、しゃれたスーツを着た「AI尹錫悦」は、見た目は本人とほとんど変わらないものの、辛らつな言葉やインターネットミーム(ウェブ上の流行ネタ)になりやすい口癖が特徴だ。ネットでニュースに接する若い有権者の関心を引く作戦で、このコンセプトは世界最速の通信速度を誇る韓国で大人気となっている。

 今年1月1日に公開された公式ウェブサイト「WIKI YOON」には700万人が訪れ、「AI尹錫悦」に質問を投げかけた。

「文在寅(ムン・ジェイン、Moon Jae-in)大統領と(対立候補の)李在明(イ・ジェミョン、Lee Jae-myung)氏が溺れていたら、どちらを助けますか?」という質問に、「AI尹錫悦」はこう答えている。「2人の幸運を祈ります」

 尹氏は「AI尹錫悦」作成のため、20時間かけて音声と映像で3000の文章を収録し、ソウルのディープフェイク技術企業にデータを提供した。

「AI尹錫悦」チームのディレクター、ペク・キョンフン(Baik Kyeong-hoon)氏は、「尹氏がよく口にする言葉ほどAI尹錫悦に反映されやすい」と語る。とはいえ、アバターが実際に話している内容を作成するのは選対チームだ。