【3月6日 AFP】ブラジルの代表的な歌手シコ・ブアルキ(Chico Buarque)さん(77)が、ボサノバ界の大御所、故ナラ・レオン(Nara Leao)さんに恋人の帰りを待ちわびる女性を歌った楽曲を提供したのは1966年のことだった。

「コン・アスーカル・イ・コン・アフェット(Com Acucar, Com Afeto、思いやりの優しさ)」。その歌は56年後の現在、歌詞がマチズモ(男性優位主義)的だと批判されている。ブアルキさんは二度と歌わないと表明、渦中の人となった。

 ブアルキさんは、ブラジルの動画配信プラットフォーム「グロボプレイ(Globoplay)」で1月に配信が始まった、レオンさんの人生を追ったドキュメンタリーに出演。「フェミニストは正しい」「フェミニストと思いは同じだ」と吐露した。

 それを受け、メディアやSNS、文化芸術界では、キャンセルカルチャー(著名人などの過去の言動を掘り返して批判したり謝罪を求めたりする風潮)やポリティカルコレクトネス(政治的な妥当性)、フェミニズムをめぐる論争に発展した。

 ネット上ではフェミニズムへの反発が多かった。あるツイッター(Twitter)ユーザーは「お笑い草だ! すべてフェミニストのせいだ」と投稿した。一方で「問題の歌はマチズモ色が濃くて大嫌いだった。ロマンチックな歌と受け止める人はどうかしている」と投稿する人もいた。

「コン・アスーカル・イ・コン・アフェット」は、恋する男性のため「甘く、愛情たっぷりの好物のお菓子」を作る女性を歌ったものだ。女性が帰りを待ちわびている間、男は酒場で羽目を外し、別の女性に色目を使っている。それでも、やっと帰ってくると「あなたの好物を温めて、温かく迎える」と歌う。

■「悩める女性の歌」

 ブアルキさんは「それは抑圧の一種であり、女性がそうした扱いを受けるべきではないという考えを、当時の人は思いもしなかったということを理解しなければならない」と話した。

「もう歌わない。ナラが生きていれば、彼女も歌わないだろう」

 ボサノバ誕生の立役者の一人とされるレオンさんは1989年、47歳で亡くなった。

 ブアルキさんは、レオンさんから「悩める女性の歌」の制作を依頼されたと語る。ブアルキさん自身もこの曲を歌っていた。

 ただ、ブアルキさんは少なくとも1980年代以降、ライブでは歌っていないとし、今回の論争はあおられたにすぎないと指摘する向きもある。

 2月初め、歌手のビビアニ・ダボグリオ(Viviane Davoglio)さんとシンガー・ソングライター、イアボラ・カッパ(Iavora Cappa)さんが「コン・アスーカル・イ・コン・アフェット」をアレンジした曲をユーチューブ(YouTube)に投稿した。

曲名は「コン・テルヌーラ・イ・コン・アフェット(Com Ternura e Com Afeto)」。アレンジ版では夜遊びに出掛けるのは女性だ。帰宅すると、泣きぬれて待っていた男性が、女性の好物を温めて出迎えるという設定になっている。(c)AFP/Joshua Howat Berger