【1月13日 東方新報】昨年10月、中国の家事手伝い派遣会社が「住み込みの家事手伝い兼家庭教師を募集 月収3万元(約54万円)以上」と応募していることを中国メディアが報道し、大きな話題となった。中国政府が昨年7月に「学習塾禁止令」を打ち出したことに対する「抜け穴」とみられるためだ。

 報道によると、派遣会社は募集の条件として「大学卒業、大学英語試験6級(日本の英検準1級クラス)、留学経験・教師の経験あり、40歳以下、上海地区在住」を挙げている。中国で大学英語試験6級の取得者は珍しくなく、世界で約530万人とされる海外留学生のうち中国人は約160万人を占める(日本人は約11万人)。上海在住で教師の経験さえあれば、条件をクリアする人は相当数いるとみられる。

 中国政府は昨年7月、学校での宿題を減らし、学校外機関(学習塾)の受講を減らす「双減政策」を発表。学校の宿題は学年ごとに上限を定め、学習塾に関しては「民間会社は非営利団体に転換すること」「休日の教育サービス提供をしない」としており、事実上の塾禁止令といわれている。受験戦争が過熱し、収入が多い家庭の子どもが一流大学に進学しやすい現状を改善する措置といわれ、学習塾は次々と閉鎖・廃業しているが、「富裕層は家庭教師を雇うのではないか」と指摘されていた。

 教育部は「住み込み家事手伝いの名目で家庭教師を雇うことは違反行為」という見解を示している。一方で教育省は双減政策以前から「ハイレベル家事手伝い」の育成に力を入れているため、問題はややこしい。ほとんどの家庭が共働きの中国では、住み込み家事手伝いのニーズは昔から高い。さらに最近は幼児教育や栄養学、介護、会計、デジタルの専門知識を持つ人材が求められている。

 4年制大学を卒業し、日本に1年留学した経験のある山東省(Shandong)の29歳女性、劉宇(Liu Yu)さんは住み込みで家事手伝いをしている。バイオリンやピアノも弾ける劉さんは料理や掃除、子どもの教育係をしており、月収は1万元(約18万円)を超える。居住費や食費が浮くことを考えれば、まずまずの収入だ。劉さんは双減政策発表前から住み込み家政婦をしており、「人から『キャリアを無駄にしている』と言われることがあるが、私は満足している」と話している。

 教育部はこれまでに「各省の大学で最低1校は家政学部を設ける」という方針を出し、実際に各地で家政学部が増えている。家事手伝い業をマネージメントする側の人材を育てることが主な目的だが、今後は高給目当てに住み込み家事手伝いの名目で家庭教師をする若者が増える可能性がある。教育専門家は「住み込みの家事手伝いと言いながら実際は家庭教師が目的だとしても、それを発見するのは非常に困難だ」と指摘している。(c)東方新報/AFPBB News