■「ロケットマン」とトランプ氏の「恋」

 2018年、ハト派とされる韓国・文在寅(ムン・ジェイン、Moon Jae-in)大統領の仲介で、金正恩氏は北朝鮮の最高指導者として初めて米国の現職大統領と会見。シンガポールで開かれた米朝首脳会談は世界の注目を集めた。

 米シンクタンク、ランド研究所(RAND Corporation)のアナリスト、スー・キム(Soo Kim)氏は、この会談を実現させた大きな要因は北朝鮮の核保有の威力だと指摘している。

 たった一度の会談で、小太りの若い指導者は、リアリティー番組の司会で名をはせて大統領になった約40歳年上の米国人実業家の心をつかんだ。

 トランプ氏は、自らがかつて「小さなロケットマン」とあざ笑った人物と「特別な絆」を築き、「恋に落ちた」とまで述べた。

 同年、金氏は文氏と森を散策しながら懇談し、北朝鮮にとって最大の支援国である中国の習近平(Xi Jinping)国家主席とも数度会談した。

「どういう結果につながるのか、興味をかき立てられた」と、米タフツ大学(Tufts University)の李晟允(イ・ソンユン、 Lee Sung-yoon)教授は語る。「残忍で、奇妙な格好をした独裁者が、改革志向で平和を希求する、核兵器と強制収容所の責任者に変身した。非核化を受け入れるものと思われた」

 だが、友好ムードは長く続かなかった。ベトナム・ハノイで開かれた第2回米朝首脳会談は、国連の制裁解除とそれに対する北朝鮮側の譲歩をめぐり決裂した。

 2019年に追加会談が朝鮮半島を分断する非武装地帯(DMZ)で行われたが、局面打開には至らなかった。