【12月10日 東方新報】化学肥料の生産量、輸出量がともに世界一の中国で、肥料価格の高騰が続いている。食糧生産に影響が出る恐れがあり、輸出の規制も図って供給確保に努めている。

 肥料の3要素は窒素、リン酸、カリ。中国は世界のリン酸肥料の35%を生産し、窒素肥料とともに生産量は世界一を誇る。カリもカナダやロシアなどに次ぐ一大生産国だ。中国国家統計局によると、肥料の原料となる尿素の市場価格は今年に入り64ポイント増の1トン3144元(約5万5923円)を記録。10年ぶりに最高値を更新した。リン酸アンモニウムも64%の1トン3345元(約5万9498円)、塩化カリウムは59ポイント増の1トン3178元(約5万5941円)と軒並み上昇している。

 中国国内では化学肥料の過剰供給を調整するため、生産量を2015年の7432万トンから2020年は26ポイント減の5496万トンに減産していた。このタイミングで化学肥料の製造に必要な原油・天然ガスの価格が国際的に急騰し、肥料の価格も跳ね上がる形となった。

 ならば生産量を再び増やせばいいかというと、中国では環境保護政策を進めている一環でリン鉱石の生産量を抑え、リン酸の増産は難しい。肥料製造企業も価格高騰のピークが過ぎた後に過剰在庫を抱えることを警戒し、窒素やカリを含め工場の稼働率を抑える企業がある。

 肥料価格は世界的にも高騰しており、尿素の国際価格は昨年の260ドル(約2万9520円)から850ドル(約9万6509円)に上昇している。ただ、中国は安全保障の観点から食糧の安定供給を重視しており、危機感は強い。肥料価格の高騰により、農産物を作っても赤字になりかねない農家が生産を控えることを懸念し、中国政府は200億元(約3562億円)の補助金を国内の農家に交付。さらに10月には尿素、硝酸アンモニウム、リン酸肥料など29品目の輸出前検査を行うと発表し、事実上の輸出削減措置を取った。

 中国は160か国・地域に化学肥料を輸出している。2002年に134万トンだった輸出量は2020年には2917万トンに達し、20年足らずで約21倍に増えた。今年も1~9月は前年同期比31ポイント増の2611万トンを輸出し、金額ベースでは99.5ポイント増の90億3300万ドル(約1兆256億円)に上るが、国内供給を優先し輸出にブレーキをかけた。

 中国政府は最近、二酸化炭素(CO2)の排出量を2030年までに上昇から下降に転じるカーボンピークアウトと、2060年までに排出量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを実現する「双炭政策」に力を入れている。製造の過程で大量のCO2を排出する肥料の増産は避けたい思惑もある。

 一方、中国が肥料を輸出する「お得意先」のブラジルからは多くの農産物を輸入し、インドからは米や綿花を輸入している。肥料を輸出して農産物を輸入する「ウインウイン」の関係を保っているだけに、長期的な輸出制限は中国にとってもプラスではない。また、化学肥料を中国に大きく依存する北朝鮮は食糧生産に悪影響が出かねない。経済大国・肥料大国となった中国は、国内事情と国際事情の両方を考慮する必要に迫られている。(c)東方新報/AFPBB News