【11月18日 AFP】定評のあるフランス語辞典「プチ・ロベール(Petit Robert)」が、性差のない人称代名詞「iel」を正式に項目に追加し、物議を醸している。伝統を重視する政治家らは、米国の影響を受けた「ウォーキズム」(社会問題に高い意識を持つよう呼び掛ける主張)による侵略だと批判している。

「iel」は、人称代名詞の男性形「il(彼)」と女性形「elle(彼女)」を合体した造語。まだ定着しているとは言えないが、反対派はフランス語に対する侮辱であり、禁止すべきだと反発している。

 ジャンミシェル・ブランケール(Jean-Michel Blanquer)国民教育相は、プチ・ロベールの判断について「将来、性差のない表現がフランス語に加わることはない」と、ツイッター(Twitter)に投稿。フランス語の保護活動で知られる仏国立学術団体「アカデミー・フランセーズ(Academie Francaise)」の介入を求める議員への支持を表明した。

 フランスでは、若い世代を中心に人種問題やジェンダー(社会的性別)をめぐる寛容な考え方が受け入れられつつある。一方、伝統主義を掲げる人々は、そうした考え方は異なるアイデンティティー(自己認識)を持つ人々を対立させるために米国から輸入されたもので、フランスが理想とする団結と平等を損なうと見なしている。

 アカデミー・フランセーズによる「iel禁止」を求めている中道与党のフランソワ・ジョリべ(Francois Jolivet)議員は、「この手の取り組みはわれわれの言語を汚し、しまいには使用者を団結させるどころか分断してしまう」と訴えている。

 プチ・ロベール編さん責任者のシャルル・バンベネ(Charles Bimbenet)氏は17日、項目追加の判断に他意はないとして、正当性を主張。社内の専門家チームから、使用事例がここ数か月にわたって増えているとの指摘があった、と説明した。その上で「この言葉に出合った人が使ってみたいと思うか否かにかかわらず、意味を明確にすることは有益だと思われる」と述べた。(c)AFP