■「工業化されつまらなくなった」

 サンイレールドブリウーズ(Saint-Hilaire-de-Briouze)村でチーズ専門店「フロマジュリー・ジロー(Fromagerie Gillot)」を家族で営むエミリー・フレシャール(Emilie Flechard)さんは「両親は昼食、夕食ごとに食後にカマンベールを食べていた」と話す。同店はフランス最大の独立系生乳カマンベール製造店だ。

「私自身は客を招いた時ぐらいしか食後にチーズは食べない」と語った。店の工房では、1日5回、正確に間隔を空けて型詰め作業が行われていた。

 カマンベール人気の落ち込みは、買い物習慣の変化も一因となっている。店でじっくり熟成させる昔風の街のチーズ専門店はほとんど過去のものとなった。農業・食料省によると、専門店やマルシェでチーズを買う人は全体の3%にすぎない。今ではスーパーマーケットで大量生産された製品を買う人がほとんどだ。

 小家族化も進んでおり、一度切ると冷蔵庫に入れてもすぐに熟成が進んでしまうカマンベールを丸ごと買おうとする人は少なくなった。

 カマンベールは原料により2種類に分けられる。

 現在では酪農製品大手ラクタリス(Lactalis)などが製造する、低温殺菌牛乳を使ったカマンベールが主流となっている。

 フランスで最初に大量生産され、広く普及したチーズの一つで、ワイン、パン、チーズから成る食の「三位一体」に欠かせないものとなった。

 しかし、風味が強くなく、粉っぽかったり、どろっとしたりする質感もあって、次第に消費者に敬遠されるようになった。

 中部トゥール(Tours)の「欧州食の歴史・文化機構(IEHCA)」の研究者ロイク・ビエナシス(Loic Bienassis)氏は「ある意味、カマンベールはバゲットのようなものだ。バゲットは20世紀後半に高度に工業化されてつまらなくなり、味も落ちた」と指摘する。

 対照的に、専門店のフロマジュリー・ジローで作られる風味の良い生乳カマンベールは人気だ。厳格なカマンベール・ド・ノルマンディー原産地保護名称(Camembert de Normandie AOP)に従い作られている他の約10種のブランドもよく売れる。

 AOPカマンベールは、牧草肥育したノルマン種の乳を使うことが求められる。現在、カマンベール市場全体の10%にも満たないが、需要は急速に拡大している。2020年の販売数は2400万個以上で、過去6年で20%増えた。

 ジローは2500万ユーロ(約33億円)を投じて設備を更新し、現代の小家族向けに小さいサイズのカマンベールを販売している。(c)AFP/Joseph SCHMID with Clara GUILLARD in Paris