【10月2日 AFP】アルバニア南部にあるブロラ(Vlora)湾の澄み切った海が、太陽の下で輝いている。だが、水面下は砂漠だ。

 海中に広がる褐色の海藻の森は、生物多様性に富んだ場所だが、着実に縮小していると科学者は警告する。海温上昇や海洋汚染、さらに爆発物を使う漁によりアドリア海(Adriatic Sea)の藻場(もば)は消滅の危機にさらされている。

 藻場の減少に危機感を抱いたアルバニアの専門家チームは、実験室育ちの藻類を使って地中海一帯の海藻の森を復元する試みに加わった。

 褐藻の一種シストセイラの減少については過去のデータがなく、数値化するのが難しいが、この海藻の群生は多くの生物種にとって重要な生息地や餌場、産卵や子育ての場となっている。

 専門家はアドリア海およびそれと接するイオニア海(Ionian Sea)でのシストセイラの消失を憂慮している。

 ブロラ大学(Vlora University)の生物学者、イナ・ナスト(Ina Nasto)教授は「ここ数年、シストセイラの藻場の急激な減少が目撃されています。最大の影響は、気候変動による温度上昇です」とAFPに語った。

 加速する沿岸部の都市化、農業・産業廃水の排出、トロール漁、堆積物汚染、魚の乱獲なども問題だとナスト氏は言う。

■保護種

 同じくブロラ大学のディナーダ・ソータ(Denada Sota)教授は、ダイナマイトや削岩機を使って岩を砕きイシマテガイを取る漁法も藻場を破壊すると指摘する。この貝は保護種だが、アルバニア沿岸の多くのレストランでは今も珍味として扱われている。

 科学者がブロラ湾で撮った画像を見ると、むき出しの岩の間を魚がまばらに泳いでいる。そこに住み着いているのはウニだけ。乱獲で天敵が消えたせいで増殖している。

 2019年1月以来、同大学の生物学研究室は地中海域にある他の10か所の研究機関と同じ手順で、褐藻を復元させる実験の一端を担っている。

 実験室で受精させたシストセイラの細胞を水槽で育て、小さな藻が石に付着したら、それを深さ約4メートルの海中に沈める。

「海底でもあらゆる観察を続けないといけません」とナスト教授は言う。自ら定期的に潜水し、成長を観察している。

 数週間後、結果を検討し、藻が定着したかどうか確かめる。この実験を通じて、藻場の復元手順が策定されることが期待されている。