【9月25日 AFP】ドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相が今月26日の総選挙後に政界を引退する。メルケル政権は長期に及んだため、国民の中にはメルケル氏以外の首相を知らずに育った世代もいる。

 東ドイツの物理学者だったメルケル氏が政界に飛び込み、世界で最もパワフルな女性となった道のりを振り返る。

■漁師たち

 ベルリンの壁(Berlin Wall)の崩壊から約1年後、当時36歳だったメルケル氏はドイツ北部、バルト海(Baltic Sea)に浮かぶリューゲン(Ruegen)島の漁師小屋に足を踏み入れた。

 カーディガンに白いTシャツ、デニムのロングスカートといういでたちのメルケル氏は、青いつなぎの作業服を着た5人の漁師と話し始めた。

「自分たちのことを分かってくれているという印象を持った」と漁師の一人は後に語った。彼はシュトラールズント(Stralsund)-リューゲン-グリンメン(Grimmen)選挙区出馬のこの候補に投票した。

 メルケル氏の最初の選挙運動、そして首相への道はこうして始まった。

 2005年、メルケル氏率いる保守政党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は僅差で選挙に勝利。メルケル氏は同年11月、ドイツ初の女性首相に就任した。

■ドイツ代表12人目の選手

 翌2006年、メルケル新首相率いるドイツは世界で最も観戦されるスポーツ大会、サッカーW杯の開催国となった。

 ドイツ代表は3位に終わったが、国民が再び喜びに満ちてドイツ国旗を振った大会の成功を見て、米誌タイム(Time)はメルケル氏を「ドイツを元気づけた女性」と呼んだ。

 メルケル氏は、「ディ・マンシャフト(Die Mannschaft)」ことドイツ代表チームと強いきずなを築いており、サッカー熱は一過性のものではなかった。

 自国代表がゴールを決めるたびにスタンドで飛び上がって喜ぶメルケル氏の姿を、ドイツのメディアは「チームの12人目の選手の名はアンゲラだ」と評した。

 独週刊紙ツァイト(Die Zeit)はメルケル氏とバスティアン・シュバインシュタイガー(Bastian Schweinsteiger)選手が交わしたとする架空のラブレターのやりとりまで連載した。手紙は「親愛なるバスティ」で始まり、「あなたのアンジーより」と結ばれていた。

 ロッカーチームで代表選手たちと一緒にポーズするメルケル氏の写真は、国際大会に欠かせない一枚となった。