【7月31日 AFP】フィリピン・マニラの墓地で、ロゾンさんの白骨化した遺体がひつぎ大の墓から引き出され、遺体袋に入れられた。当時、24歳だったロゾンさんがフィリピンの麻薬戦争で殺害されてから5年が経過し、墓のリース期間が終了したのだ。

 人権活動家らによると、ロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領が薬物中毒者と密売人を対象に取り締まりを行うよう命じて以降、フィリピンでは数万人が命を落としたとされる。悪名が高いこの取り締まりで標的となったのは、主に貧困層の男性だった。

 遺体の多くは、コンクリート製の長方形の墓が2~3メートルの高さにすき間なく積み上げられた「アパート式の墓」に納められている。墓のリース期間は5年で、費用は約5000ペソ(約1万円)だ。こうしたアパート式の墓は、首都圏として広がるマニラの至る所にある。

 遺族が更新料を払うことができない場合、リース期間は終了となる。こうしたケースでは、カトリック教会の慈善団体が遺骨を火葬し、恒久的に埋葬するための支援を行っている。

 マスクと手袋、防護服に身を包んだ男性2人がロゾンさんの遺骨を運び出した。それを見た母親のコラソン・エンリケス(Corazon Enriquez)さん(63)は、「遺骨を捨てられたくない」とAFPに語った。

 ドゥテルテ大統領就任当時、子ども7人の母親であるコラソンさんは、フィリピンから薬物を一掃するとした公約を歓迎していた。

 だがコラソンさんは、その公約によって自身の家族が標的になるとは思いもしなかった。

 漁港で働いていたロゾンさんは、夜間のシフトでも起きていられるよう、メタンフェタミンを使用していた。母親によると、息子が射殺されたのはドゥテルテ大統領就任から数週間後で、就寝中に警察によって射殺されたという。

「息子を家に引き取りたかった。たとえ体がなくても、息子がここにいるのが分かります」とコラソンさんは話し、別の埋葬場所が見つかるまで遺灰をそばに置くつもりだと続けた。

 遺骨収容の取り組みを先頭に立って進めるのは、ドゥテルテ大統領を声高に非難する司祭のフラビ・ビラヌエバ(Flavie Villanueva)氏だ。今後数年間は、リース期間の終了に伴い、数千の火葬が必要になるだろうと話す。

 司祭は、犠牲者らに「尊厳のある」永眠を与え、また遺族らも気持ちの整理が付けられるよう、遺灰を納骨室に納めたいと考えている。「大切な家族を失うだけでもつらいのに、遺骨まで失うのはあんまりです」

 この気の遠くなるような計画を実行するため、司祭は資金集めを行っている。

 だが一部の家族にとってはすでに手遅れとなってしまった。リース期間終了前に取り出され、袋に一緒に入れられた遺骨があるというのだ。

 ビラヌエバ氏は、「彼らは人間です。こんな扱いはひどすぎます」と憤りを隠せない様子で語った。(c)AFP/Allison JACKSON