■自転車は自由へのパスポートをくれた

 エーグルでは、コーチのアンリ氏が週に6日、仕上がり具合をチェックした。

 平地の60キロの練習コースは、ローヌ川(Rhone River)流域をアップダウンし、城や滝を横目に走り抜ける。伴走する車からアンリ・コーチの指示が飛ぶ。

「行け! 行け! 行け!」と沿道の作業員たちから声援を送られ、アリ・ザダは笑みを浮かべた。アフガニスタンでの路上の「交流」とは大違いだ。

「自分でも、毎日進歩しているのが分かる」と練習後、記録を確認しながら話した。「この調子で行けば、五輪も準備万端です」

 短い準備期間にもかかわらず、飛躍的に成長したとアンリ・コーチも太鼓判を押した。ミスをすぐに修正できるのが「大きな強み」だと話す。「意志が強い。頭の回転が早く、自分のするべきことを即座に理解できている」

 タイムトライアルは個人種目。アフガニスタンでは一人で自転車に乗ることはなかった。だが、自転車は自由へのパスポートをくれた。

「自転車に乗っていると、山の中にも行けるし、平野も進めるし、新しい場所を発見できる。人生が続くのが分かります。生きている実感が湧く」とアリ・ザダは言う。「行きたい所に行けるし、鳥のように飛べる。私は自由です」 (c)AFP/Robin MILLARD