【7月31日 AFPBB News】汚染された水はコレラなどの感染症を媒介し多くの犠牲者を生んできたが、3ミリ角の光源がこの状況を改善できるかもしれない。世界中どこでも必要とされる水の消毒を、小型の紫外発光ダイオード(UV-LED)装置を用いて行う研究が日本と東南アジアを結んで行われている。

「光で水を処理するクリーンなイメージに引かれたのだと思います」と東京大学(University of Tokyo)大学院工学系研究科の小熊久美子(Kumiko Oguma)准教授は語った。試験機の心臓部は3ミリ角のLED素子だ。浄水において一般的な塩素消毒は、水の味やにおいに影響する。紫外線は薬品を使わず、有毒な消毒副生成物もない。さらにUV-LEDは水銀紫外線ランプのような、破損時の有害物質の漏れのリスクもない。

 塩素消毒に加えて紫外線による消毒を導入している浄水場は、全国で408か所(2020年3月末時点)。これらは従来の水銀紫外線ランプを光源とする装置だが、UV-LED装置をすでに実装している公共の浄水場が1か所だけある。鹿児島県の長島町だ。これは世界でも先駆的な取り組みだという。水中のウイルスや細菌などの微生物の遺伝子に紫外線が損傷を与え、増殖を抑えることで感染を食い止められる。

 水が原因で生じる健康被害にはさまざまなものがある。例えばヒ素やフッ素などの土壌由来の地下水汚染などが知られているが、それらの影響は局所的である。一方、水中の微生物による飲み水の汚染は最も原始的かつ普遍的な課題で、汚染された水を飲むことで引き起こされる下痢性疾患の死者は、世界で年間約83万人に上る。特に途上国の5歳未満の乳幼児の死が多い。その問題解決に必要とされるのは消毒技術であり、ここに装置を届けたいと小熊氏は語った。

■理にかなった組み合わせ

 小熊氏は東南アジア諸国で、安全な水へのアクセスの実態調査を行ってきた。中でもフィリピンの調査が印象的だ。商業電源も水道もない離島で、太陽電池と組み合わせた浄水装置の実証試験を行った。

 一般家庭に届く電流が交流電流であるのに対し、LEDは直流電流で駆動し、太陽電池は直流電流を生む。つまり太陽電池でUV-LEDを駆動するのは直接的でロスが小さい。

「太陽放射が高い低緯度地域ほど水に困っているので、太陽光発電と水処理を組み合わせるというのは、非常に理にかなっている」と語る。

 装置の実用化に向けては、雇用を生むなど「現地にお金が落ちるようにしたい」と言う。「善意の寄付は続かない」として、国連(UN)の持続可能な開発目標(SDGs)にもある持続可能性は、ビジネスとして成立するかが鍵だと指摘する。