■タイムリミットを過ぎている

 国連はSDGsの目標6で、2030年までに安全で手頃な飲み水へのアクセスの提供を掲げている。小熊氏は誰一人取り残さず安全な水を配るには、従来のインフラのような大規模集約型の給配水システムは「もうタイムリミットを過ぎている」と言う。

 UV-LEDは小規模分散型の水処理を可能とする。小熊氏はこれを社会インフラの一つと捉え、大規模集約型と組み合わせて初めて、目標を達成できると語る。

 小熊氏が関わる装置のうち、蛇口で使用するものは1セットあたり数万円。UV-LEDの素子の低廉化は続くとみられ、今後、より安価な装置も期待できるという。例えば、蛇口での1分間に2リットルの処理で大腸菌を99.999%不活化することも可能だ。

 日本では8月1日から「水の週間」を迎える。水の問題というと発展途上国を想像しがちだが、小熊氏は「国内でも取り残されかねない人々はいる」と指摘する。水道管の行き届かない山間過疎地などだ。日本の公共水道の普及率は約98%だが、残り2%の人々は集落水道や私設井戸などに頼るしかない。ここで普及率100%を目指すのではなく、小規模分散型の水処理を活用し、すべての人が安全な水を利用できる社会の実現を目指す方が合理的ではないかと考えている。

■つながる縁

 小熊氏の研究室には、フィールド調査の縁で来日した学生の姿もある。フィリピン出身のアキレス・エスパルドン(Achilles Espaldon)さん(42)は、母国ではサン・アグスティン大学(University of San Agustin)の教員として勤務。小熊氏の離島調査に参加した縁で、日本での博士課程進学を選んだ。修了後は同大に戻り、研究活動も大切にしながら教壇に立ちたいという。

 ヴ・ドゥク・カン(Vu Duc Canh)さん(33)も、小熊氏がベトナムの調査で出会った縁だ。現在は、飲み水中のウイルスの感染性の有無を見分ける研究をしている。インドネシア出身のインドラストゥディ(Indrastuti)さん(34)は、農村集落における地下水の微生物汚染を研究。修了後は、公共事業・国民住宅省で職務を再開したいという。

 小熊氏は今後、実証研究を積み上げながら国内・海外の双方でUV-LED装置の実用化を目指す。(c)AFPBB News/Marie Sakonju