【6月26日 東方新報】中国のレストランでは最近、「紙のメニュー」を置いていない飲食店が増えた。店内のQRコードを自分のスマホでスキャンして注文するのだが、個人情報の入力を求めるケースが多く、「なぜ食事をするのに自分の名前や携帯番号を教える必要があるのか?」と批判も出ている。

「注文したいけど、メニューある?」と客が尋ねると、「テーブルに貼ってあるQRコードで注文してください」と店員が答える。注文は基本的にQRコードでという店が、中国では今や主流になってきている。スマホでスキャンすると画面上にメニューが現れ、タッチして料理を選ぶ仕組みだ。中国では支払いはすでにほぼキャッシュレス化しているので、料金もそのままスマホで支払う。

 飲食店にとっては、店員の削減や注文の効率化につながるため、このシステムはあっという間に広まった。中国メディアによると、システム導入の初期費用は2000~3000元(約3万4097~約5万1146円)で、年間の維持費は1000元(1万7048円)程度。北京市の最低賃金が月額2200元(約3万7507円)なので、はるかにコストは少ない。

「慣れると注文が便利」「すぐ注文を決められず、店員をイライラさせる心配がなくなった」という客も多いが、高齢者からは「スマホを使って注文なんてできない」という不満の声も出ている。紙のメニューを頼んでも、「うちにはありません」「紙のメニューは内容が古い」と断られるケースが多いという。

 また、QRコードをスキャンしてもすぐには注文できず、微信(ウィーチャット、WeChat)で店の公式アカウントを登録したり、自分の名前や年齢、携帯番号を入力したりする必要がある。その結果、「公式アカウントに登録したら、次々と広告がスマホに飛び込んでくる」「個人情報が何に使われるか心配だ」という不満が広がっている。

 あるレストランの経営者は中国メディアの取材に「個人情報をデータ化して、客の好みや売れ筋メニューの把握に活用している。個別の客がどれほど来店し、何を注文しているかも分かる」と打ち明けている。

 黒竜江省(Heilongjiang)消費者協会のアンケートによると、消費者の80%が「QRコードで食事を注文するよう求められた」と答え、不満や不安を感じる人が多かった。深セン市(Shenzhen)消費者委員会の調査では、95%以上の消費者が「公式アカウントの登録や個人情報の入力を強制されるのはおかしい」と答えている。

 こうした事情を受け、中国消費者協会は「携帯電話の番号や誕生日、氏名、住所など、飲食の消費と関係ない情報を消費者が提供する必要はない」と声明を発表した。浙江省(Zhejiang)の市場監督部門が飲食店に「すべてのテーブルに紙のメニューを置いておくこと」と指示するなど、各地で「スキャン注文一本化」の流れに歯止めがかかっている。

 中国政法大学(China University of Political Science and law)コミュニケーション法研究センター副センター長で中国消費者協会専門家委員会メンバーの朱巍(Zhu Wei)氏は「飲食の注文に個人情報の提供を義務付けるのは違法行為だ。消費者に必ず選択の権利を与えなければいけない」と指摘している。(c)東方新報/AFPBB News